My Sweet Highness

  第4話
 


〜Phalz and Balflear〜


 
ファルツとバルフレアは、二人きりでテーブルに差し向かいで座っていた。


 (何で、こんなことになってしまったんだ・・・。)

 王宮では見たこともないような表情をしているファムランを前に、ファルツは肩に力が入るのを感じていた。


 ***


 〜 3 minutes before 〜


 「おい、俺に何か用かい?」


 ファムランの表情は笑っているが、あまり目が笑っていないように見えた。
 「いや、知り合いが来てると聞いたものだから・・・。」
 「その『知り合い』ってのは、俺のことだろう?朝から、見張ってるんだ。『聞いたもの』じゃなくて、追ってきたと言えばいいじゃないか。」

 (ばれてたか・・・。)

 ファルツは、首をうな垂れ、すっかり観念した様子で、テーブル席に座った。


 ***


 バルフレアは、階下のマスターに酒を持ってくるように声をかけると、再びファルツの前に座った。


 「――で、俺の何を知りたいんだ?」

 ファルツは意を決したように口を開いた。
 「お前は何者なんだ?」
 「は?」
 「なぜ、ラバナスタに来た?何の目的で、陛下に近づいている?」
 「なぜ、って・・・。ちゃんと、文書も持ってきただろう?機工士は、飛空艇の管理とか色々やることがあるのさ。」
 「そんな茶番が私に通ると思っているのか!!」
 ファルツは思わずテーブルを叩いた。


 階段の上り口で、ボトルとグラスを運んできた店員が驚いた顔をする。


 バルフレアは、悪いな、と言いながら、トレーごと受け取ると、グラスに酒を注ぎ、ファルツに差し出した。

 「飛空艇のメンテナンスや、戦闘機による実戦演習だけだったら、とっくにアルケイディスに帰ることができるだろう!あれだけの身分であれば、本国で仕事がないはずがない!それに、書庫の在館時間や読書量・・・。機工士には不要のものだ。今まで派遣されてきた機工士とお前は何かが違う。いったい、何を狙って、ラバナスタに来た?」

 (尾行は下手だが、一応、俺の行動の意味を考えることはできるんだな。)
 興奮するファルツを見ながら、バルフレアは苦笑した。


 「別に、ラバナスタの何も狙ってやしない。」
 「じゃあ、何が目的だ。」
 バルフレアは、グラスの酒を飲み干すと、真顔でファルツを見た。


 「アーシェのために、ここに来た。それだけだ。」


 一瞬、ファルツは無表情となったが、すぐにバルフレアを睨みつけた。

 「陛下のため?貴様ごときが、陛下のために何ができると言うのだ。機工士風情の分際で!」
 「じゃあ、あんたは何をしてる?」
 「私か――?そんなこと、見ればわかるだろう。陛下のために、この国をお守りし、陛下を支えて差し上げるのが私の役目だ!」
 「あんたが言ってる『陛下』と『アーシェ』は同じ人物なのか?」
 「当たり前じゃないか。何を言っている?」
 「『国を守り、政務を支えること』が、『アーシェ』のためなのか?」
 「は?」


 バルフレアは、淡々とした声でファルツに語りかけた。
 「国が守られれば、あいつは幸せなのか?」


 ***


 陛下の幸せ・・・。


 アーシェ様が妃殿下の頃から、お傍において頂いた。
 兄君達に愛されて、いつも笑っておみえであった。
 兄君が亡くなられた後、ラスラ様とのご結婚が決まり、いずれは女王となられるお方となった――。
 そういえば、私は、あの頃から、アーシェ様にいつも言っていたのだ。


 『王女たるもの――』、と。


 ラスラ様とご一緒の時には、笑みを浮かべておみえだったが、あまり大きな声で笑われることはなくなった。
 私は、(王女様も自覚が出てきたのだろう)とすっかり安心していた。


 先の大戦後もそうだ。
 ご無事でお戻りになった陛下に、一刻でも早く女王になって頂きたい。
 その一心でお仕えしてきた。
 唇を引き締めて、民の幸せを誰よりも願って政務に励むお姿に、日々、頼もしさを感じていた。
 一方で、幼き日にお見せになった笑顔を見ることはなくなった。

 そう、この男が来るまでは――。


 陛下の、あの明るい笑顔を凍らせていたのは・・・。


 「私なのか?」


 ***


 「私が、陛下の御心を追い詰めていたのか・・・?」


 肩をわななかせるファルツを見て、バルフレアは軽く溜息をついた。
 「本当に、ダルマスカ人は自虐的だな・・・。」
 「なに?」
 「あんたは別に彼女を追い詰めているわけじゃない。アーシェは、あんたがいなけりゃ、きっと仕事もできないだろうし、頼りにしているのは間違いない。」
 「・・・。」
 「ただ、一人じゃ‘力’が抜けないタイプなんだ。だから、俺が必要なのさ。」


 バルフレアは、空になった二つのグラスに酒を注ぐと、ファルツにも渡した。
 「そういや、以前もアーシェとそんな話をしたなぁ。ちょうど、このテーブル席だったか?」


 (この男――。なぜ、陛下のことをこんなにご存知なのだ?)

 ファルツが、訝しく思っていると、誰かが階段を上がってくる音がした。


 ***


 「あっ!バルフレアー。やっぱり此処にいたんだ!」
 「ヴァンか?ったく、『誰も上げるな』って言っておいただろう?」


 −はい、これ。いつまでもミゲロさんとこに取りにこないから、パンネロが配達してこい、って。−
 −よく、此処だとわかったな?−
 −『この時間に空賊がいる場所なんて、此処だけだろう』ってさ。あいつ、勘がいいんだ。−
 −まあ、お前には、欠けてる要素だな。−
 −なんだよ、それ!−


 今、目の前の少年は、ファムランに対して、こう言った。
 『バルフレア』と・・・。


 バルフレア――、空賊――。

 どこかで、聞いたことがある名前だ。
 いったい、どこで?

 そうだ、陛下が戻られてから翌日に――


 『――皆に、言っておきたいことがあります。この大戦回避は、私やラーサー、オンドール候の力で成し遂げたものではありません。恐らく、これからも歴史には浮かばない、私の仲間が支えてくれたからこそ、できたことなのです。ラバナスタ市民のヴァンとパンネロ。アルケイディア帝国に残ったローゼンバーグ将軍。そして、ラバナスタを守るため、空中要塞バハムートと共に散っていった、空賊バルフレアとフラン―――』


 ――空賊バルフレアとフラン――


 ***


 「君が『空賊バルフレア』なのか!!」


 「おい、おっさん!大きな声で人の名前を呼ぶなよ!」
 バルフレアは、慌ててファルツの口を手で塞いだ。


 「そうだぜ〜。場所をわきまえろよな。」
 「ヴァン!お前が言うな!」


 バルフレアの手を除けると、ファルツはバルフレアに詰め寄った。

 「君が、あのラバナスタの救世主だったのか!」
 「ったく『救世主』なんて大げさな・・・。誰だ、そんな恥ずかしいことを言ったのは?」


 名のある空賊だと聞いていたので、てっきりローゼンバーグ将軍位の年齢かと思っていたら、こんな若造だったとは!


 「なんだ。あんた、誰からも俺のこと聞いたことなかったのか?」
 「え?他の者は知っているのか?」
 「ああ。ハウゼンとは、旅の途中で・・・、そうだ、ガリフの里で知り合ったんだ。バルザックは解放軍にいたから、俺のことを知っているし。ナーエだって、俺たちを迎えに来たときから、わかってたな。」


 どいつもこいつも!

 私だけが知らなかったというわけか・・・。

 そうか――。


 <あの>バルフレアだったのか・・・。




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