〜Phalz and
Balflear〜
ファルツとバルフレアは、二人きりでテーブルに差し向かいで座っていた。
(何で、こんなことになってしまったんだ・・・。)
王宮では見たこともないような表情をしているファムランを前に、ファルツは肩に力が入るのを感じていた。
***
〜 3 minutes before
〜
「おい、俺に何か用かい?」
ファムランの表情は笑っているが、あまり目が笑っていないように見えた。
「いや、知り合いが来てると聞いたものだから・・・。」
「その『知り合い』ってのは、俺のことだろう?朝から、見張ってるんだ。『聞いたもの』じゃなくて、追ってきたと言えばいいじゃないか。」
(ばれてたか・・・。)
ファルツは、首をうな垂れ、すっかり観念した様子で、テーブル席に座った。
***
バルフレアは、階下のマスターに酒を持ってくるように声をかけると、再びファルツの前に座った。
「――で、俺の何を知りたいんだ?」
ファルツは意を決したように口を開いた。
「お前は何者なんだ?」
「は?」
「なぜ、ラバナスタに来た?何の目的で、陛下に近づいている?」
「なぜ、って・・・。ちゃんと、文書も持ってきただろう?機工士は、飛空艇の管理とか色々やることがあるのさ。」
「そんな茶番が私に通ると思っているのか!!」
ファルツは思わずテーブルを叩いた。
階段の上り口で、ボトルとグラスを運んできた店員が驚いた顔をする。
バルフレアは、悪いな、と言いながら、トレーごと受け取ると、グラスに酒を注ぎ、ファルツに差し出した。
「飛空艇のメンテナンスや、戦闘機による実戦演習だけだったら、とっくにアルケイディスに帰ることができるだろう!あれだけの身分であれば、本国で仕事がないはずがない!それに、書庫の在館時間や読書量・・・。機工士には不要のものだ。今まで派遣されてきた機工士とお前は何かが違う。いったい、何を狙って、ラバナスタに来た?」
(尾行は下手だが、一応、俺の行動の意味を考えることはできるんだな。)
興奮するファルツを見ながら、バルフレアは苦笑した。
「別に、ラバナスタの何も狙ってやしない。」
「じゃあ、何が目的だ。」
バルフレアは、グラスの酒を飲み干すと、真顔でファルツを見た。
「アーシェのために、ここに来た。それだけだ。」
一瞬、ファルツは無表情となったが、すぐにバルフレアを睨みつけた。
「陛下のため?貴様ごときが、陛下のために何ができると言うのだ。機工士風情の分際で!」
「じゃあ、あんたは何をしてる?」
「私か――?そんなこと、見ればわかるだろう。陛下のために、この国をお守りし、陛下を支えて差し上げるのが私の役目だ!」
「あんたが言ってる『陛下』と『アーシェ』は同じ人物なのか?」
「当たり前じゃないか。何を言っている?」
「『国を守り、政務を支えること』が、『アーシェ』のためなのか?」
「は?」
バルフレアは、淡々とした声でファルツに語りかけた。
「国が守られれば、あいつは幸せなのか?」
***
陛下の幸せ・・・。
アーシェ様が妃殿下の頃から、お傍において頂いた。
兄君達に愛されて、いつも笑っておみえであった。
兄君が亡くなられた後、ラスラ様とのご結婚が決まり、いずれは女王となられるお方となった――。
そういえば、私は、あの頃から、アーシェ様にいつも言っていたのだ。
『王女たるもの――』、と。
ラスラ様とご一緒の時には、笑みを浮かべておみえだったが、あまり大きな声で笑われることはなくなった。
私は、(王女様も自覚が出てきたのだろう)とすっかり安心していた。
先の大戦後もそうだ。
ご無事でお戻りになった陛下に、一刻でも早く女王になって頂きたい。
その一心でお仕えしてきた。
唇を引き締めて、民の幸せを誰よりも願って政務に励むお姿に、日々、頼もしさを感じていた。
一方で、幼き日にお見せになった笑顔を見ることはなくなった。
そう、この男が来るまでは――。
陛下の、あの明るい笑顔を凍らせていたのは・・・。
「私なのか?」
***
「私が、陛下の御心を追い詰めていたのか・・・?」
肩をわななかせるファルツを見て、バルフレアは軽く溜息をついた。
「本当に、ダルマスカ人は自虐的だな・・・。」
「なに?」
「あんたは別に彼女を追い詰めているわけじゃない。アーシェは、あんたがいなけりゃ、きっと仕事もできないだろうし、頼りにしているのは間違いない。」
「・・・。」
「ただ、一人じゃ‘力’が抜けないタイプなんだ。だから、俺が必要なのさ。」
バルフレアは、空になった二つのグラスに酒を注ぐと、ファルツにも渡した。
「そういや、以前もアーシェとそんな話をしたなぁ。ちょうど、このテーブル席だったか?」
(この男――。なぜ、陛下のことをこんなにご存知なのだ?)
ファルツが、訝しく思っていると、誰かが階段を上がってくる音がした。
***
「あっ!バルフレアー。やっぱり此処にいたんだ!」
「ヴァンか?ったく、『誰も上げるな』って言っておいただろう?」
−はい、これ。いつまでもミゲロさんとこに取りにこないから、パンネロが配達してこい、って。−
−よく、此処だとわかったな?−
−『この時間に空賊がいる場所なんて、此処だけだろう』ってさ。あいつ、勘がいいんだ。−
−まあ、お前には、欠けてる要素だな。−
−なんだよ、それ!−
今、目の前の少年は、ファムランに対して、こう言った。
『バルフレア』と・・・。
バルフレア――、空賊――。
どこかで、聞いたことがある名前だ。
いったい、どこで?
そうだ、陛下が戻られてから翌日に――
『――皆に、言っておきたいことがあります。この大戦回避は、私やラーサー、オンドール候の力で成し遂げたものではありません。恐らく、これからも歴史には浮かばない、私の仲間が支えてくれたからこそ、できたことなのです。ラバナスタ市民のヴァンとパンネロ。アルケイディア帝国に残ったローゼンバーグ将軍。そして、ラバナスタを守るため、空中要塞バハムートと共に散っていった、空賊バルフレアとフラン―――』
――空賊バルフレアとフラン――
***
「君が『空賊バルフレア』なのか!!」
「おい、おっさん!大きな声で人の名前を呼ぶなよ!」
バルフレアは、慌ててファルツの口を手で塞いだ。
「そうだぜ〜。場所をわきまえろよな。」
「ヴァン!お前が言うな!」
バルフレアの手を除けると、ファルツはバルフレアに詰め寄った。
「君が、あのラバナスタの救世主だったのか!」
「ったく『救世主』なんて大げさな・・・。誰だ、そんな恥ずかしいことを言ったのは?」
名のある空賊だと聞いていたので、てっきりローゼンバーグ将軍位の年齢かと思っていたら、こんな若造だったとは!
「なんだ。あんた、誰からも俺のこと聞いたことなかったのか?」
「え?他の者は知っているのか?」
「ああ。ハウゼンとは、旅の途中で・・・、そうだ、ガリフの里で知り合ったんだ。バルザックは解放軍にいたから、俺のことを知っているし。ナーエだって、俺たちを迎えに来たときから、わかってたな。」
どいつもこいつも!
私だけが知らなかったというわけか・・・。
そうか――。
<あの>バルフレアだったのか・・・。
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