My Sweet Highness
第5話(最終話) |
ラバナスタの市内中がパニック状態になっていた。 ★★★ 「ファルツ様!市民が大勢王宮に押しかけています!!」
「しかし、地下にはモンスターが!!」 「地上で死ぬのを待つというのか?兵士を同行させろ!」
向こうからの攻撃の前に、パニックで死者が発生しそうな勢いだ。 ナーエが執務室に飛び込んできた。 一緒に、通信室に向かう。 酷い雑音が混じっていて、なかなか聞き取ることができない。 苛立ちを感じていると、表から叫び声が聞こえてきた。 慌てて、窓によって空を見上げると、解放軍の飛空艇があまたの塵となって散っていくところであった。 窓際にいた政務官に詰め寄るが、顔色は真っ青で、ただ指で空を指し示していた。 「・・・あ・・・あっという間に・・・・。さっきまであった船が・・・・。」 空を見上げる。 通信機からは途切れ途切れの音声しか聞こえない。
バハムートから、灼熱の陽光のようなものが発射された。 一瞬、空全体が一閃したかと思うと、西方の巨大空母が見る影もなく崩れ落ちていく・・・。
あまりのことに思考が止まる。 もう、周りの声も何を言っているのかわからない。 ファルツが呆然としている中、通信機に音声が入ってきた。
――何をおっしゃる!無謀すぎます!殿下の役目は戦後にこそある!――
ファルツとナーエは通信機に駆け寄った。
本当にご無事だったんですね!
「殿下は必ずお戻りになられる!市民を一刻も早く安全な場所へ!」
バハムートと解放軍の戦闘は続いていたが、市民のパニックは若干弱まり、着々と避難が進んでいた。 解放軍の戦闘に祈りを込めながら、吉報を待っていた。
ナーエが叫ぶ。
停止したかと思うと、その巨大な影はラバナスタの上空に堕ちてきた。 魔法障壁が歪み、何とか落下を防いでいるが、とても防ぎきれるようには見えない・・・。 まだ市内に残っている市民も、王宮にいる政務官達も、悲鳴をあげていた。
いや、恐怖で出すことすらできなかった。
生まれ故郷のこと、皇帝と初めて出会った時のこと、王宮での日々・・・。 恐怖が消えた。 そうだ、私は死ぬのだ。 後ろで、ナーエが早く逃げろと叫んでいる。しかし、どうでもいい。 私は、王宮と共にこの身が果てることを覚悟した。
――バルフレア!?バルフレア、一体どこにいるんだ!?――
ナーエもたたずみ、会話を聞いている。
――あなた一体何をしているかわかっているの?―― ――王女様。心配ご無用だ、俺を誰だと思ってる?この物語の主人公だぜ?――
政務官が叫び声をあげている。
――ヴァン・・・・・ラールを・・・だからな。・・・・承知しな・・・・――
その瞬間・・・。
こんなに悲痛な声を聞いたことはなかった。 通信は途絶え、全く音声が入らなくなった。 窓際に詰め寄る。 バハムートは、西の空に進んでいったが、すぐに火煙に包まれ、墜落していった。
もう、二度と歴史に現れない英雄だと、私は思っていた・・・。 ★★★
「まったく、何だってんだ?怒ってるかと思えば、大の男が・・・。おい、泣くなよー?」 「泣かせるのは女だけじゃないんだ?」 「生意気言うな!――おい、おっさん。今度は何だ?」 ファルツは涙を浮かべながら、バルフレアに抱きついてきた。 「バルフレアー!すまなかった〜。」 「うわあぁー!!おい!勘弁してくれ!俺にそんな趣味はない!!」 腹を抱えて笑うヴァンを横目に、バルフレアは必死でファルツを体から引き離していた。
「君は、私の・・・・、いやラバナスタの恩人だ!君を疑ってすまなかった!」 「???」 今度は、バルフレアの方が狐につままれたような顔をしていた。
一人頷くファルツを見ながら、バルフレアは首を傾げながらも、二度と尾行されないだろう・・・と、多少、安堵していた。 「何だかよくわからないが、まあ誤解は解けたようだな。ま、これからもよろしく頼むよ。」 そういって、バルフレアはファルツの肩を軽く叩いた。
「ああ、これからも殿下の忠実なる家臣として、共に頑張ろうではないか。」
「いや、『頑張ろう』と・・・。」 「そうじゃない!!その前だ!忠実なる――なんだって?」 バルフレアは、こめかみが軽くひきつるのを感じながら、ファルツに聞いた。
「はぁ?」 ファルツは(わかっている)とでも言いたげな表情で、腕を組んで頷きながら言った。
バルフレアは、危うく、椅子でも投げつけたい気分になったが、隣で笑い続けるヴァンの声を聞いて、何とか理性を保っていた。
ははは、と笑いながらファルツはさっさと階段を下りていった。
「よくわかんないけど、王宮って面白そうだな。」 「面白すぎて、俺は頭痛でも起こしそうだ。」
ヴァンは、バルフレアに渡した茶色の紙包みを指差した。 「ああ・・・。まあ、お前みたいなガキには、縁がないものさ。」 「ちぇー。パンネロと同じこと言いやがって。」 パンネロがヴァンに言っている姿を脳裏に浮かべながら、バルフレアは笑った。
じゃあな、とヴァンの頭を軽く叩くと、バルフレアは階段を下りて店を出た。 外はすっかり暗くなっていた。
ドアをノックし、バルフレアはアーシェの部屋に入っていった。
「いや、何でもない。言ってみたくなっただけさ。」 変なの、と笑いながらアーシェは、チョーカーを外しドレッサーに置いた。
バルフレアは、窓際にアームチェアを置くと、アーシェを手招いた。 「今度は、なあに?」 アーシェが座ると、バルフレアは紙袋から瓶を取り出し、中の液体を自分の手に注いだ。
「フレグランス・オイル――。ガルバナの香りさ。」 そう言うと、両手にオイルを満遍なく広げ、アーシェの肩をなでた。 「ありがとう、すごく嬉しい。」 目を閉じて、心地良さそうにしているアーシェの肩と首をゆっくりとほぐしていく。 「昼間、首を触ったら、ひどくこってたからな。あんまり気を張りすぎるなよ。」 「うん・・・。」 しばらくすると、大分肩も首も柔らかくなってきた。 そろそろいいか、とバルフレアが思っていると、アーシェが肩越しに彼の左手に自分の手を重ねてきた。 「・・・どうして、こんなに優しいの?」 「『どうして』って、俺はいつでも優しいつもりだが?」 バルフレアが苦笑すると、左手を掴むアーシェの右手に力が入った。
アーシェは、微かに肩を震わせている。
「大丈夫だって・・・。」 バルフレアは、背後から彼女の肩を抱いた。 ガルバナの香りとアーシェの髪の匂いが、鼻腔をくすぐる。 「あなたがいなくなったら、私――。私は・・・。」 弱々しい声で、アーシェは呟いた。
――No need to worry, my sweet
Highness.―― ――I’ll be there with you.―― バルフレアは、答える代わりに、アーシェの肩をきつく抱き締めた。 ガルバナの甘い香りが二人を包んでいた。 |
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