〜side Balflear(バルフレア) 〜
(本当に、尾行が下手なおっさんだ――。)
バルフレアは、半ばあきれながら外門前広場を横切っていた。
(面倒だな。撒くか・・・。)
市街地東部に進むと、ミゲロの道具ショップに入った。
(いたいた。)
店番をしているパンネロを見つける。
「よお。お嬢ちゃん。」
「あれ、どうしたの?今日は何か買い物?」
「まあ、買い物もあるんだが、お嬢ちゃんに頼みがあるんだ。」
「なに?また、何かあったの?」
面白そうだ、という顔をするパンネロに、バルフレアは口角をあげて笑った。
「まあな――。もうすぐ、入り口から、仕立てのいい服を着た白髪のオヤジが入ってくる。こいつが、しつこくてな・・・。ちょっと撒きたいんで、ここに引き留めておいてもらえないか?」
「大変ねー、人気者も・・・。」
「まったくだ。まあ、淑女なら大歓迎だが、トカゲやおっさんなんて、いちいち相手をしてられない――。じゃあ、頼んだぜ。」
バルフレアがカウンターで何やら頼んでいる間に、ファルツが店の中に入ってきた。
***
(ははーん。あの人のことね。)
パンネロは近づいて声をかけた。
「いらっしゃいませ!何をお探しですか?」
「いや、ちょっと見たいだけだから・・・。気にしないでくれ。」
白髪の男性は、店の隅に行こうとするが、パンネロは後ろをついていった。
「お客さん、初めてですよねえ?探しものならお手伝いしますよぉー。」
「いや、本当に結構だから・・・。」
男性は、ちらっと店内を見ると、慌てた顔をした。
(やばっ!気づかれちゃった?)
パンネロは、慌てて自分に注意を引きつけようと、男性の肩を叩こうとするも、店の入り口に小走りで向かわれてしまった。
「あっ、お客さーん!」
袖を引っ張るが、振り切られる。
(ごめんね〜、バルフレア!)
パンネロは、心の中で手を合わせた。
***
道具屋を出て、ラバナスタ・アカデミーに向かった。
今日は、午前中からシュトラールの整備をしていたので、書庫に入る時間が遅くなってしまったが、調査も大詰めに入りつつあるので、できれば早めに資料を読みきっておきたかった。
階段をあがり、書司官に挨拶をして、閉架書庫に入る。
「ファルツ公!珍しいですね。どうしたんですか?」
背後の受付から、声が聞こえてきた。
どうやら、お嬢ちゃんは振り切られてしまったらしい。
それにしても、本当にしつこい男だ。
呆れ半分、感心半分で、さっさと本を探し、目を通し始めた。
***
「バルフレア、調査は終わった?」
声をかけてきたのはアーシェであった。
まあ、ほぼ毎日この時間になると、声をかけてくるのは決まって彼女なのだが・・・。
「終わりってわけじゃないが、あと一息ってところだ。先日、興味深い古文書を見つけたんでな。もう少しで、話がつながりそうなんだが・・・。」
「話がつながったら、また、旅に出てしまうの?」
アーシェは、寂しそうにうつむいた。
「そんな顔するなって。一生戻らないわけじゃなし――。大体、俺は空賊だぜ?いつまでも、地面を這ってるわけにはいかないだろう。」
「それは、そうだけど・・・。」
アーシェと話をしながら、バルフレアは棚の後ろからこちらを覗いている人影に気づいた。
(少しからかってやるか・・・。)
「どこに行っても、必ずお前のところに帰ってくるから――。な?」
そう言うと、アーシェを引き寄せ、唇を重ねる。
「約束よ。」
「ああ。」
我慢しながら笑顔で答える彼女の気持ちを感じつつ、バルフレアは笑みを浮かべた。
***
二人で書庫を出る。
「悪いが、今日は市街地で用事があるんだ。また、夜にでも顔を出すから。」
「わかった。じゃあね。」
胸の前で、小さく手を振るアーシェを残し、バルフレアは再び市街地に向かった。
***
うざったいな――。
背後から感じる視線に、バルフレアはそろそろウンザリした気持ちになっていた。
(ったく、仕方がない・・・。)
砂海亭に入って、マスターに声をかける。
「悪いが、少し二階を借りるぜ。」
「まあ、常連さんだから、何も言いませんが・・・。面倒ごとは勘弁してくださいよ。」
「こっちも、面倒は願い下げだ。誰も上にあげるなよ。」
二階にあがり、植木の陰に隠れ、気配を消す。
案の定、ファルツ公はあがってきた。
自分に気づく様子もなく、二階フロアの中央で、狐につままれたような様子である。
背後から近づいて声をかけた。
「おい、俺に何か用かい?」
どうして?と言った顔で、こちらを見ている。
思わず、バルフレアは苦笑した。
(おいおい、俺を誰だと思ってる?)
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