My Sweet Highness

  第3話
 


side Balflear(バルフレア) 〜


 
(本当に、尾行が下手なおっさんだ――。)

 バルフレアは、半ばあきれながら外門前広場を横切っていた。

 (面倒だな。撒くか・・・。)



 市街地東部に進むと、ミゲロの道具ショップに入った。

 (いたいた。)
 店番をしているパンネロを見つける。


 「よお。お嬢ちゃん。」
 「あれ、どうしたの?今日は何か買い物?」
 「まあ、買い物もあるんだが、お嬢ちゃんに頼みがあるんだ。」
 「なに?また、何かあったの?」
 面白そうだ、という顔をするパンネロに、バルフレアは口角をあげて笑った。


 「まあな――。もうすぐ、入り口から、仕立てのいい服を着た白髪のオヤジが入ってくる。こいつが、しつこくてな・・・。ちょっと撒きたいんで、ここに引き留めておいてもらえないか?」
 「大変ねー、人気者も・・・。」
 「まったくだ。まあ、淑女なら大歓迎だが、トカゲやおっさんなんて、いちいち相手をしてられない――。じゃあ、頼んだぜ。」


 バルフレアがカウンターで何やら頼んでいる間に、ファルツが店の中に入ってきた。


 ***


 (ははーん。あの人のことね。)

 パンネロは近づいて声をかけた。


 「いらっしゃいませ!何をお探しですか?」

  「いや、ちょっと見たいだけだから・・・。気にしないでくれ。」
 白髪の男性は、店の隅に行こうとするが、パンネロは後ろをついていった。
 「お客さん、初めてですよねえ?探しものならお手伝いしますよぉー。」
 「いや、本当に結構だから・・・。」
 男性は、ちらっと店内を見ると、慌てた顔をした。


 (やばっ!気づかれちゃった?)
 パンネロは、慌てて自分に注意を引きつけようと、男性の肩を叩こうとするも、店の入り口に小走りで向かわれてしまった。

 「あっ、お客さーん!」
 袖を引っ張るが、振り切られる。


 (ごめんね〜、バルフレア!)

 パンネロは、心の中で手を合わせた。


 ***


 道具屋を出て、ラバナスタ・アカデミーに向かった。


 今日は、午前中からシュトラールの整備をしていたので、書庫に入る時間が遅くなってしまったが、調査も大詰めに入りつつあるので、できれば早めに資料を読みきっておきたかった。
 階段をあがり、書司官に挨拶をして、閉架書庫に入る。


 「ファルツ公!珍しいですね。どうしたんですか?」

 背後の受付から、声が聞こえてきた。

 どうやら、お嬢ちゃんは振り切られてしまったらしい。
 それにしても、本当にしつこい男だ。
 呆れ半分、感心半分で、さっさと本を探し、目を通し始めた。


 ***


 「バルフレア、調査は終わった?」


 声をかけてきたのはアーシェであった。
 まあ、ほぼ毎日この時間になると、声をかけてくるのは決まって彼女なのだが・・・。


 「終わりってわけじゃないが、あと一息ってところだ。先日、興味深い古文書を見つけたんでな。もう少しで、話がつながりそうなんだが・・・。」
 「話がつながったら、また、旅に出てしまうの?」
 アーシェは、寂しそうにうつむいた。
 「そんな顔するなって。一生戻らないわけじゃなし――。大体、俺は空賊だぜ?いつまでも、地面を這ってるわけにはいかないだろう。」
 「それは、そうだけど・・・。」
 アーシェと話をしながら、バルフレアは棚の後ろからこちらを覗いている人影に気づいた。


 (少しからかってやるか・・・。)


 「どこに行っても、必ずお前のところに帰ってくるから――。な?」
 そう言うと、アーシェを引き寄せ、唇を重ねる。

 「約束よ。」
 「ああ。」
 我慢しながら笑顔で答える彼女の気持ちを感じつつ、バルフレアは笑みを浮かべた。


 ***


 二人で書庫を出る。
 「悪いが、今日は市街地で用事があるんだ。また、夜にでも顔を出すから。」
 「わかった。じゃあね。」
 胸の前で、小さく手を振るアーシェを残し、バルフレアは再び市街地に向かった。


 ***


 うざったいな――。


 背後から感じる視線に、バルフレアはそろそろウンザリした気持ちになっていた。

 (ったく、仕方がない・・・。)
 砂海亭に入って、マスターに声をかける。
 
 「悪いが、少し二階を借りるぜ。」
 「まあ、常連さんだから、何も言いませんが・・・。面倒ごとは勘弁してくださいよ。」
 「こっちも、面倒は願い下げだ。誰も上にあげるなよ。」


 二階にあがり、植木の陰に隠れ、気配を消す。
 案の定、ファルツ公はあがってきた。
 自分に気づく様子もなく、二階フロアの中央で、狐につままれたような様子である。

 背後から近づいて声をかけた。


 
「おい、俺に何か用かい?」
 

 どうして?と言った顔で、こちらを見ている。
 思わず、バルフレアは苦笑した。


 (おいおい、俺を誰だと思ってる?)




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