My Sweet Highness

  第2話
 


side Phalz(ファルツ) 〜


 「大丈夫クポ?起きてクポ!」



 うん?

 どこだ、ここは・・・?

 確か、ターミナルに来ていたような――。

 しまった―――!!

 寝過ごしてしまった!

 顔色を変えて驚く。

 しかも、声をかけてくれたのは、何とあの戦闘機の整備士じゃないか!


 「いや、ありがとう。何でもない。失礼するよ。」

 そそくさと、ターミナルを立ち去る。


 しまった、奴を見失ったか?と心配したが、ターミナルを出ると、例の亜麻色の髪が視界に入る。

 よかった――。

 見失ってはいないらしい。


 ***


 奴は、外門前広場を通り抜け、道具屋に入っていく。


 何の用事だろう?

 そっと扉を開けて、中に入る。

 いた!

 カウンターで何やら注文しているようだ。
 
 「いらっしゃいませ!何をお探しですか?」

 目の前に金髪の少女が現れ、元気よく声をかけてくる。

 おい!目立つじゃないか。他の人に声をかけてくれ!

 「いや、ちょっと見たいだけだから・・・。気にしないでくれ。」

 こそこそと店の隅に移動するが、少女が後をついてくる。

 「お客さん、初めてですよねえ?探しものならお手伝いしますよぉー。」

 頼むから、ほっといてくれ!

 「いや、本当に結構だから・・・。」

 ファルツがそう言って、再び店の中に目を配ると、ファムランは既にいなくなっていた。


 (いない!!)


 「あっ、お客さーん!」

 袖を引っ張る少女を無視し、何とか店の外へ飛び出した。


 ***


 通りを北に向かっているファムランの後ろ姿を何とか見つけ出す。
 

 後をつけて、しばらくすると、彼はラバナスタ・アカデミーの門をくぐって行く。

 本館に入ると、階段を上り、書庫に向かっていった。

 慣れた感じで書司官に挨拶をすると、閉架書庫に入っていく。


 (さては、何かダルマスカ国の秘密でも探る気か?)


 カウンター越しに、書司官に声をかけた。

 「ファルツ公!珍しいですね。どうしたんですか?」

 慌てて、人差し指を口にあて、静かにするよう合図をする。


 「あの男は、しょっちゅうここに来ているのか?」

 「ああ、ファムランさんですか?ええ、大体この時間にはいつもお見えになりますよ。本当に勉強熱心な方ですね。」

 私は、軽く咳払いをして、小声で書司官に耳打ちした。

 「何やら、国家の機密を探っている可能性もあるので、悪いが閲覧記録を見せてもらえないか?」

 「そうなんですか?とても、そうは見えませんけど・・・。」

 書司官は、キーボードを叩き始めた。


 アカデミーの図書館は蔵書量が多いため、一冊毎に、薄いチップが装着されており、そのチップを通して一括管理されている。
 しかも、誰が図書を閲覧したかとか、どのくらいの時間本が開かれていたか等の記録が、書司の記録媒体機に転送され、簡単に検索できるようになっているのだ。

 媒体機の記録を見せてもらうと、『イヴァリース創世神話』『黄道十二宮の謎』『発掘研究報告書第二七七号』・・・・など、歴史書ばかりだ。


 「ファムランさんは、本当に歴史好きなんですよねぇ。閉架図書の歴史書の三割くらいは、もう読まれていますよ。あとは、人文科学関連か、地誌学関係が中心ですかね。まるで、歴史家みたいだ。」

 「特に、交易とか経済関連のデータを検索している様子はないだろうか?」

 「うーん。全くないですね。」


 どういうことだ?

 それにしても、機工士のくせに、歴史書ばかり読むなんて、聞いたことがない。

 ファルツが首を捻っていると、書司官が隣で声をあげた。

 「あ、アーシェ陛下!お疲れ様でございます。」

 書庫の入り口に姿を現したのは、アーシェであった。


 何!陛下が来たのか!

 近くの時計を見ると、午後の三時二十分を指し示している。

 「おい、私のことは決っっっして言わぬように!」

 慌てて、カウンターの下に隠れた。



 「今日も、ファムランは来てる?」

 「はい。いつもの席に行かれていると思いますよ。」

 「そう、ありがとう。」

 アーシェは、そう言うと閉架書庫に入っていった。



 ふー。

 あぶない、あぶない。

 っていうか、何だ!?

 ‘今日も’とか‘いつもの’って?

 「君、陛下は‘いつも’ここに来ているのか?」

 「ええ、大抵は、この時間にお見えになられますが・・・。」


 まったく――!

 仕事が終わるとさっさと部屋に戻られると思っていたら、こんなところにお越しになっておったとは!


 こっそりと、閉架書庫に入っていくと、二人を見つける。

 何やら話をしているようだ。

 棚の陰から、覗いていると、ふいにファムランが、陛下の首に手を伸ばすと、自分の顔を近づけた。


 こらーーーーっ。

 陛下に何をするーーー!!


 危うく、棚から飛び出しかけるのを、何とか踏みとどまる。

 あの男は、絶対に許すわけにはいかん!!!

 怒りを静めるため、深呼吸をしていると、いつの間にか二人がいない。

 慌てて、書庫を出ると、ファムランは陛下と別れて、出て行ってしまった。


 ***


 今度はどこに行くのだろう?

 奴が入っていったのは、砂海亭とかいう酒場であった。


 しばらく、こうした店には入っていないので、心なしか敷居が高い。

 しかし、陛下のためだ・・・。仕方があるまい。

 恐るおそる店に入る。

 ファムランは、何やらカウンターのマスターと話をしていたが、すぐに二階にあがっていった。

 奴が上り終えたところで、私もゆっくりと階段をあがる。


 二階にあがったが、誰も見当たらない。


 ――あれ?誰もいない?


 フロアの中央に進み、空のテーブル席に近づいてみる。



 「おい、俺に何か用かい?」

 背後から、低音の声が響く。



 ――いつの間に・・・。



 ふりむくと、腕を組んだファムランが薄笑いでこちらを見ていた。




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