My Sweet Highness

  第1話
 


side Phalz(ファルツ) 〜
 

 近頃の陛下はすっかり変わってしまわれた。

 知らない間に、市街地に出かけることもしょっちゅうだ。

 服装も礼装ではなくトラウザーズを着て歩く等、王宮に街娘がいるのかと驚いたことも、一度や二度ではない。

 そう。

 心なしか、‘品’が欠けたようにお見受けするわけである。

 原因はわかっている。

 アルケイディア帝国からやってきた機工士、『ファムラン・ミド・ブナンザ』とかいう男だ。

 
 大体、あの男は、初めて会った時から、気に入らなかったのだ。

 

 ***


 「ファルツ。こちらはファムラン・ミド・ブナンザ公です。ソリドール家の直属の機工士でいらっしゃって、飛空艇のメンテナンス業務等の管理をなさるから、今後も失礼のないようにね。」

 アーシェ陛下に、そう言われ、私も驚いたものである。


 あのソリドール家直轄の機工士が来るとは――。

 相当な技術者であるに違いないから失礼がないようにせねばならない。


 「初めまして。今後とも、お見知りおきの程を・・・。」

 そう言って、ファムランは深々と礼をした。

 紳士的な態度に、感心していると、彼は早々とその黒髪を‘取った’のである。


 「あの・・・。ブナンザ公。その髪は?」

 正直驚いて尋ねると、彼はこう言ったのだ。

 「ええ、アルケイディスでは、こうした鬘(かつら)が流行っていましてね。外に出るときには、身につけるのが嗜みなのです。多少、厄介ですが、仕方がありませんね。」

 ははは、と笑う彼に、私は、(そうか、そんな流行があるとは知らなかった・・・)と、自分の知識不足を内心嘆いていたのである。


 翌日、バルザックとハウゼンに話をし、自分も何か準備をした方がいいだろうか、と相談したら、二人に大笑いされたのだ。

 「そんな流行あるわけないでしょう!」

 「かつがれたんですよ、ファルツ公は!」


 あやつ、謀りおったな!

 恥をかいたじゃないか!!



 腹が立ったので、私はファムランのところに申し入れに行ったのだ。

 すると、あの男はこう言った。

 「流行と言っても、もちろん政民の範囲です。近頃は、どうやら懐古主義が流行っておりましてね。儀式的な場面でしか使われませんよ。なので、私も皆様に初めてお会いするにあたって、身につけた次第です。もちろん、ダルマスカの方が、アルケイディスに行く際には不要ですよ。どうぞ、ご安心ください。」

 何だ、そうか・・・、とホッとしてその場を引き返したのである。


 結局、これも後日、ナーエに話した際に、
 「貴方、二度も騙されたの?」
と笑われ、結局、だとわかった。

 あの一件で、私の彼に対する心証は、憎憎しいものとなったのである。
 

 ***
 

 しかし、何より、腹が立つのは、アーシェ陛下に対するあの態度である。

 先日も、こう言っていた。


 ――おい、アーシェ。――


 ‘おい’とは何だ! ‘おい’とは!!


 ダルマスカの陛下であらせられるのに、‘おい’呼ばわりとは何たる不遜。

 しかも、名前を呼び捨てとは!
 陛下も陛下である。


 ――何?ファムラン?――


 『何』、じゃありません!
 ここは、むしろ厳重に注意をして頂きたいのに!!


 とにかく、腹立たしいこと、この上ない。

 あまりに腹が立ったので、ナーエには忠告をしたのだ。

 すると、彼女はこう言った。

 「別にいいじゃない。陛下は、政務も以前より早く処理なさるし、的確だわ。何の問題があると言うの?」

 
 まったくもって、話にならない!

 だいたい、よく考えれば、ファムランは、アルケイディアの人間だ。

 もしかするとラーサー殿のスパイかもしれない。

 誰も用心しないのであれば、誰が陛下をお守りできるのだろうか?

 そうだ、私がする以外、手はないのだ!

 そうと決まれば、さっそくあの男を見張らねば・・・。

 私は、彼を尾行することとした。
 

 ***

 

 翌朝、ファムランは部屋を出てくると、地下の食堂へ向かっていった。


 地下の食堂は、王宮の給仕達が食事をするところである。
 客人であるファムランは、大食堂に行けば、給仕がついて食事が取れるのに、いったい――?


 物陰から様子を見ると、給仕係たちと雑談しながら、食事を取っている。

 どうやら昨日、今日に始まったことではなさそうだ。

 ――本当に、ファムランさんは冗談が好きだわねー。――

 何やら、給仕たちと大笑いしている。

 「じゃあ、そろそろ行くとするか――。」

 奴は、給仕たちに挨拶をすると、市街地に出て行った。

 
 王宮から市街地を通り抜け、ターミナルの王宮関係者専用入り口から倉庫に入っていく。

 後をつけていくと、例の戦闘機に向かって行った。
 モーグリ族の三人が出迎えている。
 何やら話をして、飛空艇の中に入っていった。
 

 ***
 

side Balflear 〜


 「バルフレア、大変クポ!入り口で、誰か寝てるクポ!」

 「はぁ?」


 久しぶりにシュトラールの整備でもしようと、ターミナルに来たのだが、待合室で寝ているのはファルツ公であった。

 大方、気に入らない俺の‘尻尾’でも掴もうと後をつけてきたのだろうが、自分が尻尾を掴まれてどうするんだ?


 「どうするクポ?起こすクポ?」

 バルフレアは肩を竦めた。

 「今、起こすと面倒だからな。整備が終わって、俺がターミナルを出たら、起こしてやってくれ。まったく世話のかかるおっさんだ。」


 ノノとバルフレアは再びシュトラールに戻っていった。




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