嘘つきは空賊のはじまり

  第3話
 


 ロザリア皇帝生誕祝賀会は、日中から行われる。
 開始は午後1時30分。
 皇帝宮前の広場にて、国民に向け、挨拶をするところから始まる。
 その後、式場に移動し、近隣諸国の代表者からの挨拶を受ける。
 多少の休憩を挟み、次は、ロザリア帝国内で、この1年の間に大きな功績を残した人物に対して勲章を授与。
 こうした行事をこなすだけで、もう晩になる。
 最後は、晩餐会に出席し、終了――。
 
 「と、いうわけで、いたって単調な式典ですよ。」
 ハハハと笑うアルシドに、アーシェは尋ねた。
 「では、私は午前中、一人で過ごせばよろしいのでしょうか?」
 ああ!と右手を額にのせ、アルシドは頭をふった。
 「陛下、何てことをおっしゃるのですか?私がご一緒させていただくに決まっているじゃありませんか?」
 「式典当日でしょう?貴方も忙しいでしょうから、私一人で過ごしていても構わないわ。」
 「いえいえ、貴女のエスコート役を務めることが私の仕事ですから・・・。そのような遠慮は無用です。」
 「そうですか・・・。」
 
 本当は、少々食傷気味なのである。
 彼の案内は、全く問題なく、とても気が利いていて、満足いくものだ。
 しかし、朝から晩まで、四六時中一緒だと、さすがに息が詰まり始める。
 一人で、ゆっくり過ごしたい気分なのだ。
 
 バルフレアと一緒の時には、こうしたことはなかったのに・・・。
 彼とのつかず離れずの距離感が、如何に心地良いものなのか、改めて感じていた。
 
 (式典が終わったら、すぐにダルマスカに帰ろう。)
 
 ふう、と窓の外を見るアーシェに、「では、今日はどこに参りましょうか?」と明るく話しかけるアルシドの声が響いた。
 
 ***
 
 「久しぶりの宝探しだね、なんだかワクワクするなあ。」
 「お嬢ちゃん、遊びに行くわけじゃないんだから、緊張感は保ってくれよ。」
 「何、言ってるの?貴方だって、随分楽しみにしていたくせに・・・。」
 「そうなのか?バルフレア?」
 「余計なこと言うなよ、フラン!」
 
 バルフレアを先頭に、パンネロ、フラン、ヴァンが歩いているのは、琥珀の谷の更に奥地――マルガラス家の墓所への山道である。
 
 バルフレアが調査したところによると、聖櫃を持ち出すのは、式典前日であることがわかった。
 この日は、マルガラス家の私兵のみで、マルガラス私領にある墓所から聖櫃を運び出し、敷地外まで運搬する。
 そして、公領に接する場所からは、待ち構えていた公兵が護衛をするようだ。
 公兵を私領内に入れることは、大本営の幹部連中に、マルガラス家の墓所内の情報を不要に与えてしまうことになるので、避けている。
 従って、私領にうまく入り込めば、護衛が少なく聖櫃を手に入れやすくなる・・・、という算段だ。
 
 「お、あった、あった。」
 
 山道というより、獣道を進んでいくと、私領と公領を隔てる境界があった。
 
 「バルフレア、どこに境があるの?何にもないじゃない?」
 パンネロがキョロキョロと辺りを見回すと、フランが笑った。
 「境は、魔法障壁で作られているから、目で見ることはできないわ。でも、よく、辺りを見てごらんなさい。障壁をつくるための、小さな祠が地面近くに作られているでしょう?」
 ヴァンとパンネロがよく見ると、木の洞や草葉の陰に隠れ、青色に光る石が目立たぬよう、祠に護られ、あちらこちらに置かれていた。
 へぇー、という顔で感心している彼らにバルフレアが声をかけた。
 「アレを壊そうとして酷い思いをした盗賊は後を絶たない。俺達は、祠を壊さず、この障壁を残したまま侵入する。」
 「ええっ!そんなことできるのかよ?」
 「そのために、これがあるのさ。」
 
 バルフレアが懐から出したのは、人造破魔石であった。
 にやりと顔を崩した彼が、破魔石をかざすと、石は鈍い光を放ちながら、辺りの魔力をたちまち吸収した。
 「ほら、今のうちに、さっさと入るぞ。」
 石をかざしながら、4人は易々と奥に進む。
 しばらく歩き、辺りを見計らうと、彼は破魔石を袋にしまった。
 破魔石が輝きを止めると同時に、ぽわんという微かな音と共に、再び魔法障壁が動き出す気配がした。
 「すげー。魔法の鍵みたいだな。」
 ヴァンは驚きの声をあげた。
 「油断するな。まだ、壁を越えただけだからな。どんな罠があるかわからないのは墓所の常だろう?」
 バルフレアは慎重な表情を崩さず、再び歩み始めた。
 
 4人は更に慎重な面持ちで奥に進み始めた。
 
 ***
 
 幾つかトラップはあったものの、経験豊富な彼らにとって、それらを乗り越えるのは然程難しいことではなかった。
 墓所の入り口に到着し、フランとバルフレアは周辺を調べ始めた。
 
 「既に、誰かが入った形跡があるな。」
 パンネロが驚きの声をあげた。
 「えっ、間に合わなかったってこと?」
 「いや、墓所内に先んじて侵入し、聖櫃を持ってくるのは大変だ。だから、出口まで持ってきてもらって、私兵達に魔法をかけて、奪うのが確実だろう――。」
 「なるほどね。」
 「と、いうわけで、その辺りに隠れるぞ。」
 
 4人が隠れ、息をひそめていると、しばらくたった後、墓所の扉が開いた。
 すると、山賊様の男達が勢いよく飛び出してきたかと思うと、クリスタルを取り出し、一気に瞬間移動してしまった。
 
 「しまった!奴ら、ゲートクリスタルを使ったのか?」
 
 慌てて飛び出したバルフレアが舌打ちすると、扉に向かったフランが声をかけた。
 
 「中から、血の臭いがするわ・・・。」
 「バルフレア、中に行ってみようぜ!」
 
 ヴァンは、こちらの返事も待たずに中に入っていった。
 
 「待てって!気をつけろよ!」
 
 慌てて3人も追いかける。
 
 中に入ると、既にトラップが止められた状態になっており、階下に下りるのはたやすいことであった。
 
 「あっ!人が倒れてる!」
 
 マルガラス家の紋章入りの制服を来た私兵達が倒れていた。
 中には瀕死の者もいたが、何とか命は取り留めたようだった。
 全員で、急ぎ、治癒魔法をかける。
 
 「聖――櫃を・・・、奪われた・・・。」
 「おい、あまり喋るな。」
 「アル――シド様に、ほ――うこくを・・・。」
 男は、それだけ言うと、気を失った。
 生命維持は可能であっても、これだけの人数を完治させるまでの魔力はない。
 どうしたものか、と思い悩んでいると、人が近づく気配がした。
 
 4人に緊張感が走る。
 
 暗がりに現れた複数名の者達の先頭に立った、背の高いブロンド髪の人物、そしてその後ろにいる小柄な黒髪の青年――。
 
 「貴方達、ここで何をしているんですか?」
 
 その聞き覚えのある声の主は、イヴァリースのもう一つの巨大帝国――アルケイディア帝国の青年皇帝、ラーサーであった。
 
 「なんで、お前らがここにいるわけ?」
 「ヴァン、人を指差すなんて、失礼でしょ!」
 目を丸くしているヴァンと、諌めるパンネロを見ながら、ラーサーはくす、と笑ったが、すぐに表情を引き締めた。
 
 「ラーサー様、既に聖櫃まで奪われてしまっては・・・。」
 「そうですね、アーシェさんの身の上が心配です。」
 バッシュとラーサーは顔を曇らせた。
 「おい、何で、アーシェが関係あるんだ?」
 慌てた様子でバルフレアは声をかけた。
 
 二人はしばし黙り、目を合わせたが、ラーサーが口を開いた。
 「ここは、皆さんにも協力を頼みましょう。まずは僕らの船に向かってください。」
 
 
 

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