バルフレアが、一人操縦室でたたずんでいると、鎧の音を立てながらバッシュが入ってきた。
「何だ、あんたか。」
「何だ、じゃない。陛下に何を言った?」
バルフレアは顔をしかめた。
「聞きたければ、自分で‘陛下’に聞けばいいだろう?俺は、何も言っちゃいない。」
何も言ってないのが問題なのだ、とはわかっているのだが・・・。
「君は、いつもそうだ。」
バッシュの物言いに、バルフレアはむっとした表情を示した。
「何?」
「君は確かに賢い。他の人間より、先も読めるし、弁も立つ。でも、自分の生の感情となると、途端に対処できなくなる。だからこそ、父親から逃げたんじゃないのか?」
その台詞に、バルフレアはカッとなった。
「ふざけんな!あんたに俺の何がわかる!」
思わず、バッシュの胸倉を掴む。
「ああ、わからんさ。君の気持ちなんて。でも、君は向き合ったはずだ、父親と。そして自分自身と。そうじゃないのか?バルフレア――。」
「・・・。」
「確かに、君と陛下のことは、君たちの問題だ。」
バルフレアは、掴んでいた手の力を緩めた。
「陛下は自分の感情に向き合って、君を訪ねたのだろう。恐らく、言いたいことを言ったはずだ。しかし、答えのない問いに迷い、抜け出せなくなったような顔をしている。彼女の問いに答えるのは――、問われた者としての‘つとめ’ではないのか?」
手を離して、バッシュの顔を見るバルフレアに、バッシュは言葉を続けた。
「今の君なら、その軽口で気持ちを誤魔化す必要もないだろう。君自身の感情を、そのまま言葉にすればいい。」
バルフレアは、ふっと笑うと、いつもの彼らしい表情でバッシュを見た。
「全く・・・。あんたは、誰に対しても、いつでもそうなのか?」
「いや。私は守るべきものを守るだけだ。そして、私は、バルフレア――君も守りたいのだよ。」
バッシュは、アーシェの様子を見て、バルフレアが何も言わなかったのだろうと推察した。
感情的なことが絡むと、思い悩んで足を踏み出しにくくなったり、言いたいことをうまく言えないままにする彼の癖――それが出たに違いない、と想像したのである。
今はまだいいかもしれないが、遠い将来、この‘癖’が彼の生き方を縛ることになることをバッシュは心配していたのだ。
バルフレアが、バッシュの至情を感じていると、外から早足で誰かが近づいてくる音がした。
***
「こんなところにいたー!バルフレアー!!」
大きな声を出して、操縦室に入ってきたのはパンネロであった。
妙に足取りが軽い。
「何だなんだ、今度はお嬢ちゃんか・・・。」
バルフレアは、眉をひそめた。
「何だ、じゃないわよ!」
パンネロは近づいてくると、バルフレアの顔下から身を乗り出した。
酒の匂い?
「おい、お嬢ちゃ・・・。」
「アーシェが何か変な顔してた!前みたいに、かた〜い感じの顔。ちゃんと何か言ってあげたの?」
どいつもこいつも似たようなことばかり・・・。
バルフレアのうんざりした顔を見て、パンネロは、「聞いてる?」と、彼の注意を引いた。
「どうせ、また知らんぷりする気でしょ?あたし、わかってるんだから――。」
パンネロは、何かを思い出したように、少しだけ下を向いた。
「ラバナスタに来た時だって、指輪も自分で返さないし、戴冠式だって見ていってあげなかったでしょう――?でもね、アーシェにバルフレアの手紙と指輪を渡したとき、彼女、ほんとに泣き出しそうになってたんだよ。すごく大事そうに抱えて・・・。」
「・・・。」
「バルフレアだって、アーシェがすごく頑張ってること、知ってたんでしょう?『ちゃんとわかってる』って言ってあげなよ!バハムートが沈んだ時、アーシェがどんな顔してたと思ってんの!?」
パンネロは、興奮してきたのか、少し目が潤んでいた。
「バルフレアなんて、全然、女心なんてわかってないんだからー!! きゃっ!」
鼻をつままれて、パンネロはじたばたしていた。
「今、なんつった?」
「×××!!」
「‘お嬢ちゃん’に女心を教えてもらえるとはな――。」
バルフレアが笑って、手を離すと、パンネロが、ぷはっ、と息をする。
「何するのよー!」
声をあげるパンネロに、操縦室の入り口からヴァンが声をかけた。
「あっ、パンネロ!。ここにいたんだー、探したぞ〜。」
「ヴァン、飲んでもいいが、お嬢ちゃんのエスコートぐらい、ちゃんとしろ。」
「ごめん。おい、パンネロ、いつの間に飲んでたんだ? ほら、行くぞ。」
ヴァンは、まだ何やら言いたそうなパンネロの手を引っ張ると、操縦室を出て、キャビンに戻っていった。
***
「全く、ダルマスカ人ってのは、本当にお節介なヤツが多い。」
やれやれ――とバルフレアは肩を竦めた。
「君も人のことは言えないだろう?」
笑みを浮かべるバッシュに、バルフレアは唇の端をあげて笑った。
「――ところで、頼みがある。」
「頼み?」
「イヴァリースの危機を救ったんだ。謝礼に、皇帝陛下から賜りたいものがあるのさ。」
バルフレアが片目を閉じ笑みを浮かべる様子を見て、バッシュは微笑した。
「いいだろう。イヴァリースの‘英雄’の頼みだ。」
***
バッシュが操縦室を出て行くと、バルフレアは、再び操縦席に座った。
(全く・・・。アーシェの心配をしている場合じゃなかったのかもしれないな。)
―― バルフレアは、もう少し素直になれよな! ――
レムレースではヴァンに指摘され、挙句の果てには将軍やお嬢ちゃんからも説教をされてしまった。
(俺が、アーシェに言ってきたことを、俺自身が言われるとはな・・・。)
自嘲気味に笑うも、胸の中には爽快な気分が広がっていた。
(俺の‘本気’か・・・。)
バルフレアは、シュトラールの操縦を自動から手動に切り替えると、一気に加速し、眼前の雲を割いていった。
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