記 ラーサー・ファルナス・ソリドール
『レムレース戦記 前バレンティア暦七〇七年 −最終章』 より抜粋
翼のジャッジの正体は、ヒュムではなく、‘異形の民’と呼ばれるフォル・ヴィエラ一族の末裔、ミディアという女性であった。
彼女は、前バレンティア歴七〇四年のナルビナ戦役で恋人を失っていたのである。
我々は、当初、彼女が帝国を恨んだことから、聖晶石を用いて帝国に復讐するのかと考えていたが、事態は更に悪いものであった。
実は、レムレースの悲劇は、太古の時代に始まっていた。
それは、イヴァリースの我々の歴史より遥か古くの、まるで伝説のような話であった。翼を手に入れたエグル族と、地上の‘神’と呼ばれたオキューリアの争いが悲劇の発端である。
オキューリアにより地上から追われたエグル族の長、それがレムレースの神フォルサノスの正体であった。そして、地上に残されたフォルサノスの子孫がフォル・ヴィエラ族だったのである。妻はヴィエラ族であるが、その子らは、ヒュムとヴィエラの両方の特徴を兼ね備えていたため、その姿形からヴィエラ社会から異端視されてしまった。迫害された彼らは、イヴァリースでも生物が住むには過酷としか言いようがない、死の山、ローダ火山に住んでいた。
ヒュムの三倍以上の寿命を持つといわれるヴィエラ族の遺伝子を持つ彼らの伝承は、我々の感覚からすると‘伝説’だ。しかし、父祖の代から口頭で伝えられてきた伝承は、彼らにとって‘真実’である。
そして、一族の末裔、ミディア・・・。彼女は、七〇六年にダルマスカと帝国の戦争が終結、和睦した頃に、フォル・ヴィエラ族に伝わる古文書を手にしたようだ。
古文書の記載から、太古に封じられた空中大陸に永遠の命を持った祖先がいることを知った彼女は、グレバドスの遺跡で遺産(秘宝)を手にし、フォルサノスが残した飛空艇によって空中大陸レムレースに赴いた。
なお、後に判明したことだが、七〇六年にオキューリアの遺産‘天陽の繭’が破壊された際の、地上の膨大なエネルギーが、空中に張られた封印を薄れさせていたようである。その結果、地上の空賊は、より高層への航空が可能となり、レムレースの発見に至ったのだ。
地上に突如現れた幻獣と、七〇六年の戦役が関連しているとは、正直、私自身、予想できなかったことである。
末裔であるミディアは、レムレースで父祖フォルサノスに会うことができたが、あまりにも長かった時間(とき)はフォルサノスの姿形のみならず、‘心’をも変えていた。
末裔であるミディアは、‘永遠’に囚われた父祖の魂の解放を願っていたのである。
レムレースに存在する石――浮遊石――は、地上のそれとは性質が異なり、エネルギーを吸収するタイプのものだ。逆に言えば、エネルギーを吸収できなくなればその力が発揮されなくなる。
太古の昔、オキューリアによって、空中大陸に結界が張られた結果、浮遊石は地上からのエネルギーを得ることができなくなり、レムレースは資源、人口共に危機的な状況に陥ったようである。また、エグル族が手に入れた翼の代償が‘短命’であることも、人々の絶望を煽ったのは想像に難くない。
新たなエネルギー源が必要となった。
それが、エグルの‘心’であったのだ。
指導者としてのフォルサノスは、‘心’を奪うことで、民を救おうとした。
他に民を救う方法はなかったのか・・・、この答えは、未だもってわからない。
なぜなら、‘心’を吸収することで、浮遊石は再び力を持ち、そして、それがレムレースという空中大陸を維持していたからである。
我々は、エグル族の心を解放するために、フォルサノスを敗った。
そして、レムレースを支える浮遊石――聖晶石――と同化したフォルサノス自身が敗れたことで、レムレース大陸は崩壊してしまった。
エグル族の青年リュドが、生き残ったエグル族を率いて、新たなる世界を見つけるために旅立っていったが、それは、封印も解け、新たな時代となった‘今’だからこそ、できたことなのかもしれない。
レムレースはもはや存在せず、幻獣もまた消えてしまった。
空中大陸の話は再び伝説となり、イヴァリースにもまた平穏の日々が戻ってきた。
エグル族がその後どうなったのかは、今のところ、誰にもわからない。
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