FLY ME TO THE SKY

  第16章−2 Cross Over 〜 Side B(Balflear) 〜
 


 バルフレアがラウンジにいると、アーシェが一人デッキに向かう姿が目に入った。


 どうも浮かない表情をしている。
 翼のジャッジの話を聞いて、大方‘昔の自分’のことでも考えているに違いない。


 (ったく、しょうがねえなあ。)


 軽く顔をしかめ、立ち上がると、ラウンジを出てデッキに向かった。
 フランは、その姿を目にしながら、興味深げに笑っていた。


 ***


 あちこちを回り、午後も遅くなってきた。
 そろそろ、今日の停艇場所に向かおうと考えながら、ヴァンはラウンジを歩いていた。


 「あれ、アーシェは?」
 フランに問いかけると、少し訳有り気な表情でこちらを見た。


 「少し、風にあたってくるそうよ。」
 「ふーん。」


 ***


 バルフレアが、デッキの入り口に着くと、アーシェは景色をぼんやりと眺めてるところであった。
 しかし、その姿は浮かない様子というよりは、風の心地良さを楽しんでいるといった感である。


 (心配することもなかったか・・・。)
 ラウンジに戻っても良かったのだが、目が離せず、風に髪を泳がせているアーシェの姿を見つめていた。
 軽く目を閉じ、深呼吸している様子を見て、ふと、からかいたい衝動にかられた。


 「いいのか?女王様がこんな吹きっさらしの場所にいて。」


 アーシェの肩が、一瞬びくっとする。
 しかし、振り向きもせず、彼女は答えた。
 「少し外の風にあたりたかっただけ。・・・すぐ戻ります。」
 「そりゃ、結構。」


 さぞかし、驚いたくせに。
 相変わらず、意地っ張りなことで・・・。

 
 バルフレアは、笑いを堪える。

 「先日――。」
 「ん?」
 「先日、ロザリアの・・・アルシドの元を訪れました。」


 アルシド・マルガラス――。
 マルガラス家の諜報部を取り仕切る‘あの’貴公子か。
 確か、バーフォンハイムでも、アーシェに声をかけていたな・・・。


 「友好国への表敬訪問か。女王様はお忙しい・・・。」
 「首都 琥珀の谷の夕日は美しかった。」


 確かに、あそこの夕日は名勝として名高い・・・、が、一緒に行った相手が、アルシド・マルガラスであるのは、気に入らない。
 ついつい、冷たい口調になってしまう。


 「シュトラールで飛ぶ夕空よりもか?」
 「・・・あの時はゆっくり景色を見る余裕がなかったから。」
 うつむき加減になったアーシェを見て、自分が、大人気ないことをしていることに、バルフレアは気がついた。


 (俺はこんなに感情的な人間だったか?)

 一息いれ、気持ちを落ち着かせながら、いつもの口調で返事をした。


 「いずれゆっくりご覧に入れたいもんだ。」


 アーシェの動きが止まった。
 少しの間をおき、少し擦れた声で彼女は答えた。


 「・・・、あなたが本気でそう思っているのなら。」


 そう言って、ゆっくりと振り向くと、彼女はバルフレアの目を真っ直ぐに見つめてきた。
 無表情だが、強い意志が浮かぶその瞳から目が離せず、バルフレアは、一瞬、心臓が大きく波打ったのを感じた。
 
 ほんの二、三秒であったはずだが、二人の間には長い時間が流れたようであった。


 アーシェは、見つめた目を逸らすと、いつもの笑みを浮かべ、デッキを出て行った。


 ***


 (本気でそう思っているのなら・・・、か。)


 他人に踏み込むのも、踏み込まれるのも嫌で、ついつい軽口で距離をとってしまう自分の癖。
 女王様にはどういうわけだか、世話をやいたり、胸のうちを話してみたり、自分にしては近づきすぎた気がしていた。
 それにしても、一年も離れていたのに、一瞬で距離を縮められてしまった。


 (まったく・・・。俺はつくづく、やっかいなものに惹かれる性分らしい・・・。)


 バルフレアは肩を竦めると、下がりつつある太陽に目を向けた。


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