FLY ME TO THE SKY

  第16章−1 Cross Over 〜 Side A 〜
 


 あちこちを回り、午後も遅くなってきた。
 そろそろ、今日の停艇場所に向かおうと考えながら、ヴァンはラウンジを歩いていた。


 「あれ、アーシェは?」
 フランに問いかけると、少し訳有り気な表情でこちらを見た。


 「少し、風にあたってくるそうよ。」
 「ふーん。」


 ***


 アーシェは一人デッキにたたずんでいた。


 翼のジャッジのことを知れば知るほど、嘗ての自分に重なるものを感じ、やるせない気持ちになっていたのだ。
 その一方で、仲間と共にいることで、そんな複雑な自分の感情と向き合いつつ、目の前のことに立ち向かっていけることも事実であった。


 (もう、前のことはふっきれたつもりだったけど。やはり、過去を断ち切る、というわけにはいかないわね・・・。)
 軽く目を閉じ、深呼吸をしたとき、後ろから声をかけられた。


 「いいのか?女王様がこんな吹きっさらしの場所にいて。」


 (バルフレア!いつの間に・・・。)
 自分の背後に、バルフレアが立っているのを感じつつ、アーシェは振り向くことができずにいた。
 振り向いたら、思っていることがきっと顔に出てしまう・・・。


 「少し外の風にあたりたかっただけ。・・・すぐ戻ります。」
 「そりゃ、結構。」


 相変わらず、そっけない言い方・・・。


 次の言葉が、なかなか見つからず、少しの沈黙の後、アーシェは口を開いた。
 「先日――。」
 「ん?」
 「先日、ロザリアの・・・アルシドの元を訪れました。」


 アーシェは、自分の鼓動が速まるのを感じていた。


 「友好国への表敬訪問か。女王様はお忙しい・・・。」
 「首都 琥珀の谷の夕日は美しかった。」


 どうして、自分でもこんなことを話しているのかわからなかった。


 「シュトラールで飛ぶ夕空よりもか?」
 「・・・あの時はゆっくり景色を見る余裕がなかったから。」
 少し目を伏せたアーシェに、バルフレアは誘いかけるような言い方をした。


 「いずれゆっくりご覧に入れたいもんだ。」


 アーシェの鼓動が大きく鳴った。

 彼の言葉一つひとつに翻弄されてしまう自分を感じ、これまで抑えてきた気持ちを堪えられなくなった。


 「・・・、あなたが本気でそう思っているのなら。」


 喉から搾りだすような声で言葉を発すると、アーシェは振り向いて、バルフレアの目を真っ直ぐに見つめた。

 ほんの二、三秒であったはずだが、二人の間には長い時間が流れたようであった。


 アーシェは、見つめた目を逸らすと、いつもの笑みを浮かべ、デッキを出て行った。


 ***


 (また、肝心なことを言えなかったな・・・。)


 アーシェは、なかなか素直になれない自分に苦笑しながら、ラウンジへと向かった。


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