あちこちを回り、午後も遅くなってきた。
そろそろ、今日の停艇場所に向かおうと考えながら、ヴァンはラウンジを歩いていた。
「あれ、アーシェは?」
フランに問いかけると、少し訳有り気な表情でこちらを見た。
「少し、風にあたってくるそうよ。」
「ふーん。」
***
アーシェは一人デッキにたたずんでいた。
翼のジャッジのことを知れば知るほど、嘗ての自分に重なるものを感じ、やるせない気持ちになっていたのだ。
その一方で、仲間と共にいることで、そんな複雑な自分の感情と向き合いつつ、目の前のことに立ち向かっていけることも事実であった。
(もう、前のことはふっきれたつもりだったけど。やはり、過去を断ち切る、というわけにはいかないわね・・・。)
軽く目を閉じ、深呼吸をしたとき、後ろから声をかけられた。
「いいのか?女王様がこんな吹きっさらしの場所にいて。」
(バルフレア!いつの間に・・・。)
自分の背後に、バルフレアが立っているのを感じつつ、アーシェは振り向くことができずにいた。
振り向いたら、思っていることがきっと顔に出てしまう・・・。
「少し外の風にあたりたかっただけ。・・・すぐ戻ります。」
「そりゃ、結構。」
相変わらず、そっけない言い方・・・。
次の言葉が、なかなか見つからず、少しの沈黙の後、アーシェは口を開いた。
「先日――。」
「ん?」
「先日、ロザリアの・・・アルシドの元を訪れました。」
アーシェは、自分の鼓動が速まるのを感じていた。
「友好国への表敬訪問か。女王様はお忙しい・・・。」
「首都 琥珀の谷の夕日は美しかった。」
どうして、自分でもこんなことを話しているのかわからなかった。
「シュトラールで飛ぶ夕空よりもか?」
「・・・あの時はゆっくり景色を見る余裕がなかったから。」
少し目を伏せたアーシェに、バルフレアは誘いかけるような言い方をした。
「いずれゆっくりご覧に入れたいもんだ。」
アーシェの鼓動が大きく鳴った。
彼の言葉一つひとつに翻弄されてしまう自分を感じ、これまで抑えてきた気持ちを堪えられなくなった。
「・・・、あなたが本気でそう思っているのなら。」
喉から搾りだすような声で言葉を発すると、アーシェは振り向いて、バルフレアの目を真っ直ぐに見つめた。
ほんの二、三秒であったはずだが、二人の間には長い時間が流れたようであった。
アーシェは、見つめた目を逸らすと、いつもの笑みを浮かべ、デッキを出て行った。
***
(また、肝心なことを言えなかったな・・・。)
アーシェは、なかなか素直になれない自分に苦笑しながら、ラウンジへと向かった。
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