FLY ME TO THE SKY

  第14章 伝説の浮遊大陸
 


 アーシェが女王に就任して数ヵ月後、ダルマスカには再び不穏な空気が流れ始めた。


 今、人々の間で、ある噂が流れている。

 ――アルケイディア帝国が、ジャッジを率いて、再び、ダルマスカを侵略する――

 

 ***


 「現在、集まっている情報は?」
 執務室に集められた幕僚達にアーシェは尋ねた。


 「東ダルマスカ及び西ダルマスカ砂漠に、正体不明のモンスターが現れるとのことで、交易量が大幅に減少しています。」
 「ナルビナ城砦近辺でも、最近、目撃情報が増えてきているようです。」
 「バンクール地方にも、モンスターは出現しているらしいのですが、ジャハラはガリフ族がおり、撃退しているため、被害は少ないようです。しかし、オズモーネ平原での出現が多いために、ギーザ草原の集落とジャハラの往来に支障が出ています。」


 アーシェは溜息をついた。
 「各クランへの討伐依頼への成果はどう?」


 「個体単位での討伐は成果をあげているようですが、数が増大するにつれ、ハンターレベルの対応では間に合わない状況になりつつあります。」
 頭を抱えるアーシェに、ハウゼンが声をかける。


 「陛下。更に悪い情報が・・・。」
 「これ以上、悪い情報が?いったい何?」
 「今、巷である噂が広がっています・・・。」
 「噂?」
 「はい、『翼のジャッジが再びダルマスカを侵略する』と・・・。」
 「最悪の情報だわ・・・。」



 戴冠式の夜に、ラーサーから未確認のモンスターが出没し始めていると聞いてから数ヶ月。
 まさか、ここまで被害が拡大するとは・・・。


 「ハウゼン、バルザック、ここ数ヶ月の間で、他に巷で噂になったものがあれば、小さなことでも構いません。詳細を調べて。ファルツは内々にビュエルバとアルケイディアに連絡をとってちょうだい。ラーサーに秘密裏で会いに行きます。」
 「しかし、陛下!もし、アルケイディア帝国が本当に侵略を考えているのであれば!」
 「いえ。ラーサーはこの動きを既に読んでいたはず。彼から情報を得なければ、我々は動きがとれません。しかし、表立った動きは危険ですから、オンドール候の助けを借りましょう。」



 ***



 数日たたない内に、バルザックとハウゼンは、ある情報を持ってきた。


 「怪しい飛空艇がラバナスタに現れていた?」
 「はい、数ヶ月前に南門付近に随分古い飛空艇が現れたらしいのですが、その後急にいなくなったようです。」
 「付近の住民の証言によると、深夜、バンガ族が飛空艇の近辺をウロウロしていたようなのですが・・・。それと、例の少年空賊達も・・・。」
 「念のため、彼らの家を何度か訪問しましたが、不在でした。近辺の聞き込みをしても最近は見かけないと・・・。」


 (ヴァンとパンネロが動いているのか・・・。今回の騒動とあまり関係があるようには思われないが、どうもひっかかる・・・。)


 アーシェが眉間にしわをよせて考え込んでいると、ファルツがやってきた。
 「陛下、アルケイディアとビュエルバから連絡が入りました。二日後には向かうことが可能との事です。」
 「わかりました。私たちも準備をしましょう。」


 ***


 二日後、アーシェは、ビュエルバのオンドール候の屋敷に向かった。
 ラーサーとバッシュ、オンドール候が待っていた。


 「おじさま、お久しぶりです。今回は申し訳ありません。」
 「いえ、アーシェ陛下。空中都市群には例のモンスターの影響はあまり聞かれませんが、地上の不安はそのまま空中都市に影響をもたらします。私も情勢はよく把握しておきたかったものですから、助かります。」
 奥席に座っていたラーサーは立ち上がり、二人に着席を促した。

 「それでは、皆さんお揃いになったところで、ガブラス卿より報告をさせて頂きましょう。ガブラス卿、お願いします。」


 「アーシェ陛下の戴冠式前後より、未確認のモンスター情報が入り、アカデミーの研究者による調査団を立ち上げました。彼らの調査の結果、それらはイヴァリース固有の種ではなく、‘幻獣’と呼ばれるものではないかと・・・。」
 「幻獣?」
 「はい、どうやらミストに己を映して実体化している一方で、幻のように消えてしまうことから‘幻獣’と言われているようです。また、この幻獣を呼び出すためには、なにやら石を用いるようです。この石は、伝説の浮遊大陸‘レムレース’という場所にのみ存在する鉱石のようです。」

 「ガブラス卿、それは‘魔石’とは異なるのだな?」
 「はい。近頃、イヴァリースの空賊にも‘幻獣’を操るものが出始めまして・・・。捕らえて、その鉱石を分析したところ、魔石は蓄えたミストを放出するとただの石となってしまいますが、この石は周囲のエネルギーを吸収して放出することができるようです。」


 アーシェは溜息をついた。
 「また、‘石’ですか・・・。しかも、天然の、エネルギーを吸収できる石が存在するなんて・・・。」
 「はい、使い方によっては、再びイヴァリースに危険が及ぶことも考えられます。しかも、その幻獣は、イヴァリースの召喚獣と異なり、複数体を呼び起こせるのです。そして、今、イヴァリースのあちこちで出現している禍々しい鎧に包まれた正体不明の『翼のジャッジ』という者が、この幻獣を操り、各地の侵略を重ねているのです。また、空賊の中には、この人物に従うものもでてきており、勢力が拡大する可能性があります。」


 「ところで、先ほど浮遊大陸という話がでたのだが、何か情報は?」
 「これも、捕らえた空賊から情報を得まして、このイヴァリースのはるか上空に位置しているとのことです。」


 ある程度、情報が出たところで、ラーサーが口を開いた。
 「実は、謎の石に関する情報が入った段階で、バルフレアさんに接触しようと思ったのですが、掴まらなかったのです。シュトラールが稼動を始めた段階で、網は張っておいたはずなのですが、どうやらすり抜けられたようです。」


 バルフレアが動いた・・・、そして、ヴァンも・・・?


 「ラーサー、実は、ラバナスタでもヴァンやパンネロがいなくなっているのです。怪しい飛空艇が来訪していたという情報もありますし・・・。」
 「そうすると、また彼らが関わっている・・・、と?」
 「ええ、その可能性は高いと思いますわ。」


 オンドール候は咳払いをした。
 「‘石’絡みであれば、やはり彼らの力を借りる必要がありそうですな。」



 ラーサーは、政務が立て込んでいることもあり、元老院と協議をしなければ動きがとれないとのことであった。
 そこで、まずはダルマスカの専守防衛用の新型リヴァイアサンを、イヴァリース防衛の名のもと、先んじて出動させることとなった。


 ***


 「だからといって、どうして陛下が出向かれるのですか!?」
 珍しくファルツ公が大声をあげていた。


 「ですから、何度も言ったでしょう?話がこじれるとややこしいから、私が直接彼らと話をするのです、と!」
 「別に、バルザックでもよろしいのではないですか!彼らと知り合いですよ!!」
 「知り合いならいいというものではないのです!ただ、聞いてきてそれで終わり、というわけにはいかないのです。だからこそ、私が行く必要があるのです!」


 ナーエは、感情的に言い合いをしているアーシェとファルツを眺めながら、話に割って入った。
 「わかりました。陛下、レムレースとやらに向かってください。」
 「ナーエ!君はまたそういう甘いことを!」
 ナーエは、その長い指先をファルツの眼前で左右に振り、言葉をさえぎった。
 「甘いとかそういうことではないわ。陛下が『自ら動くべき』と判断したんですもの。それでいいじゃない。それに、リヴァイアサンには、ジャッジマスター・ガブラス、すなわちローゼンバーグ将軍がついているのです。陛下の安全は守られましょう。」
 「・・・しかし!」

 次の句が続かぬファルツから、アーシェに目を向けたナーエは言った。
 「陛下が直接、行かねばならぬ『理由』があるのでしょう?」
 「ナーエ・・・。」

 「‘忘れえぬもの’に、向き合ってくるのですよ、陛下。」


 ナーエは、アーシェがヴァンに会いに行くことのほかに、理由があることを察していた。
 ずっと再会を果たすことができなかった‘最速の空賊’と呼ばれる男――彼と向き合うことが、アーシェには必要だと考えたのだ。


 「但し、市民には内緒にしますので――。なるべく早く王宮にお戻りくださいね。」
 「ありがとう・・・。」


 ***


 翌々日には、アーシェは新型リヴァイアサンに乗り込んでいた。

 リヴァイアサンは、みるみる高度をあげていく。
 眼下の遥か下方は雲海しか見えず、その高さがうかがわれた。


 しばらく経ち、バッシュが前方を指差した。
 「陛下、見えてきました。」


 (本当に、陸が浮かんでいる・・・。ビュエルバのような‘島’ではない。こんな大陸が上空にあったなんて。)


 リヴァイアサンは、徐々にレムレースに近づいていった。


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