FLY ME TO THE SKY

  第13章 舞
 


 バッシュは、大広間を見渡すと、アーシェに声をかけた。


 「ところで、陛下。今日は、あの‘新人空賊’達はどうしているのですか?」
 「ヴァンとパンネロのこと?こういった堅苦しい場所は苦手だと思って、他の場所にいてもらっているのよ。」


 確かに、大広間にはダルマスカ内外の要人達が集まっており、いくら着飾ったとしても、ヴァンやパンネロでは場違いなのは自明であった。
 肩を落としたラーサーを気遣い、バッシュは尋ねた。


 「では、どちらに?」
 「たぶん、庭園にいると思うの。庭園では、バルザックやハウゼン達が騎士団仲間で祝賀会をすると言っていたので、そこなら楽しめるだろうと思って、案内したわ。あなたなら、王宮内もわかるでしょう?良かったら、行ってみてはどうかしら、ラーサーも一緒に。」
 「しかし、陛下・・・。今の私は――。」
 「ガブラス殿。新生ダルマスカ騎士団の殆どは解放軍の出身です。あなたの事情については、緘口令がしかれているから大丈夫よ。逆に言えば、本当のあなたのままで、いられる数少ない場所かもしれないわ・・・。今日は、ゆっくり楽しんでいって。」
 「――陛下。ご配意感謝します。では、ラーサー様、参りましょうか。」


 バッシュとラーサーは、大広間を出ると、庭園にむかった。


 ***


 庭園には、宴のための酒や食事が用意されており、騎士たちは上機嫌で、宴も酣(たけなわ)といった感であった。
 大広間の上品な雰囲気に比べると、大声で笑いあい雑多な雰囲気であるが、ラーサーもバッシュも、開放的なこの雰囲気に居心地よさを感じていた。


 「うぉーい、バッシュー?」


 後方から、場にそぐわない大きな声でバッシュの名を呼んだのは――、ヴァンであった。
 あたりの兵達がバッシュを一瞬見つめるが、すぐに、何も聞かなかったかのように飲み始めていた。
 破顔で近づいてくるヴァンに、バッシュは咳払いをした。
 「ヴァン、君が私を覚えてくれているのは嬉しいが、ここでは・・・。わかるな?」
 「あ、そっかー。『ガブラス』だっけ。ごめん、ごめん。」
 そこへ、丈の短い胴衣と、大きく膨らんだ赤のズボンを膝下で絞った衣装に身を包んだ少女が走ってきた。

 「だめじゃない!ヴァン。そんな大声で名前呼んだら!」


 「パ・・・、パンネロさん?」
 ラーサーは、パンネロの姿を見ると、顔を真っ赤にした。
 久しぶりの再会であることもさることながら、パンネロの艶やかな装束に驚いたのだ。


 「久しぶりだな、パンネロ。元気そうだね。」
 「バ・・、いえ、小父様もお元気そうで。」
 あまり、反応のないバッシュを見て、ラーサーは恐るおそる尋ねた。
 「ガブラス卿、パンネロさんのお姿に、あなた何か言うことはないんですか?」
 バッシュはしばし、考慮し口を開いた。
 「・・・。パンネロ、随分綺麗になったね。衣装もよく似合っているよ。」
 「はい、ありがとうございます。」


 普段、めったに動揺しないラーサーが、口を開けている姿を見て、バッシュはようやく気がついた。
 「陛下は、ダルマスカの踊り子の衣装を見たことがないので、どうやら驚かれたようですね。動きやすいことと、体の動きをよく見せるために、踊り子の装束というのは、このようになっているんですよ。しかし、パンネロ、その衣装を身につけているということは、随分、腕をあげたということかい?」
 「はい、小父様。ラバナスタで今の師匠について、最近ようやく『着てもいい』って言われるようになったんです。」
 「今日は、アーシェ様が、ついに女王になられた特別な日だ。我々にも、君の踊りを見せてくれるかい?」
 「ええ、よろこんで。」


 パンネロに付いて、一行は庭園の中央の噴水に向かって歩き始めた。
 ちょうど噴水の周りで、バルザックとハウゼンが酒を酌み交わしていた。
 二人は、ラーサーとバッシュに気がつくと、はじけたようにとんで来た。
 「陛下!ごっ、ご無沙汰しております!」
 「将軍!おっ、お久しぶりです!」
 二人同時に頭を深々と下げる様子を見て、ラーサーとバッシュは苦笑した。


 「今日は、私も陛下も、客人としてアーシェ女王の即位を祝いに来た。皆と一緒にここで祝わせてもらってもいいか?」
 「喜んで!さあ、こちらにどうぞ。」
 そそくさと、二人は席をつくる。
 「バルザックさん、祝いの踊りを踊ってもいいですか?」
 「パンネロが踊ってくれるのかい?――おーい、パンネロが踊ってくれるぞー。音楽を鳴らせー!」
 楽隊員達は、楽器を手に取ると、音楽を奏で始めた。



 ***


 パンネロは、薄絹のストールを持つと、音楽に合わせて舞い始めた。
 噴水の水の動きと、彼女の滑らかな動きが重なり、優しく癒されるようなその踊りに、しばし周囲の目が奪われた。
 噴水の周囲を一周踊り、最後に大きく跳躍した姿は、月に照らされ、まるで、羽を広げた天使の飛翔かと思わせる・・・。


 踊りを終え、兵士たちからの拍手喝采を浴びながら、パンネロは、バッシュとラーサーの元へ戻ってきた。
 「小父様、いかがでした?」
 「すばらしい踊りだったよ、パンネロ。亡くなられたご両親も喜ばれていることだろう。陛下―?。」
 バッシュが、ラーサーを見ると、余韻に浸っているのか、いつもの彼らしい台詞が一向に出てこない。


 「ラーサー様?」
 パンネロに声をかけられ、ラーサーは、はっと我にかえった。
 「あっ!――パンネロさん、本当に素敵な舞でした。僕、こんな舞は見たことがありません・・・。本当に、綺麗でした。」
 「そう言って頂けると嬉しいです。まだ、修行中の身ですが、がんばります!」


 その夜は、バッシュもラーサーも、今の自分たちの立場をしばし忘れ、宴を楽しんだ。
 ラバナスタの宴は深夜まで続いた。



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