「うわー!俺たちの飛空艇が〜!」
ヴァンの悲痛な声が轟く。
バルフレアに誘われて、ようやく着いたグレバドス遺跡。
秘宝を手に入れたと思ったら、急に遺跡が崩れ始めたのだ。
慌てて、外に飛び出すと、自分たちの飛空艇が崖下に落ちていくではないか。
***
〜二週間前のラバナスタ〜
シュトラールが消えてしまった倉庫に残された、宝飾がついたクリスタル――。
「これって、お礼かな?」
パンネロがクリスタルを手に抱えた。
「最近、バザーでもクリスタルが売ってるけど、こんなに綺麗で大きいのって見たことないよ?」
「そうだなあ〜。飛空艇代の足しになるかもしれないし・・・。幾らになるか聞いてみるか?」
二人がミゲロに相談すると、ミゲロは、『どうやって手に入れた!』と驚きながら、宝飾品専門家を紹介してくれて、破格の値段で買い取ってもらうことができたのだ。
「これで、一気に飛空艇が買えるぞ!」
ヴァンは、早速、飛空艇を購入し、パンネロと一緒にベルベニアに向かったのだ。
***
崖を見つめている間もなく、自分たちの足元も崩れ始める。
二人は、バルフレアとフランの後を追い、急ぎシュトラールに向かった。
上空に飛び立つシュトラールにつかまり何とか脱出は成功した。
再びラバナスタに戻り、ヴァンとパンネロを降ろすと、バルフレアはもう出立の準備をしていた。
「おい!もうすぐ、アーシェの戴冠式だぞ!会っていかないのかよ。」
ヴァンが、バルフレアの背に声をかけた。
「有名人は忙しいのさ。女王様によろしくな。」 バルフレアは、振り向きもせず、軽く手をあげ、シュトラールに乗り込んでいった。 シュトラールは、エンジンを一気に稼動すると、爆音と共に再び空へと旅立ってしまった。
「なんだ、あいつ?」
「本当。――素直じゃないなあ。」
ヴァンとパンネロは、空を見上げた。
***
「――さて、秘宝も手に入れたし、しばらくバーフォンハイムあたりに潜るか。」
操縦席で、軽く首をまわし、肩をほぐすバルフレアに、フランは声をかけた。
「本当に、よかったの?」
「何がだ――?」
「<女王様>に会っていかなくて。」
バルフレアは軽く肩を竦めた。
「あいつは、ダルマスカの女王様だ。空賊風情と関わるような真似はできないだろう。」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ。」
そう言うと、バルフレアは更に速度を上げた。
(本当は、会うのが怖いから、でしょう・・・?)
バルフレアの横顔を見ながら、フランは軽く微笑んだ。
***
前バレンティア暦七〇七年。
旧正月に併せて、アーシェの戴冠式が催された。
その日は、朝から街中に人が溢れ、この新たな年を祝おうと、皆の表情は活気に満ち溢れていた。
アーシェは色とりどりの宝玉がついた留め具で髪をまとめあげ、オフホワイトの生地を金糸で飾り上げた衣装に身を包み、王宮の自室から空を見上げていた。
「いつも、空を見ておいでですね。」
ナーエが部屋に入ってきた。
アーシェは、苦笑いをして振り向いた。
「本当に、あなたは好きなときに私の部屋に入ってくるのね。」
二人は、顔を見合わせて笑った。
「何か、空に忘れてきたものでもあるのですか?」
先日、パンネロがアーシェを尋ね、何かを渡して以来、アーシェが心ここにあらずといった表情をすることが、しばしば見られたのだ。
「いえ、忘れたものなどはないわ。むしろ、忘れられないものがある・・・、かしらね。」
アーシェの表情を見て、ナーエはようやく納得がいった。
−バルフレアが生きている−
その話を、パンネロがアーシェにしているところをナーエは立ち聞きしてしまったのだ。
その後、アーシェは、女王になることを決意し、今日の戴冠式を迎えることができた。
あれほど、迷っていたのに、何が殿下をそうさせたのだろう、とナーエは不思議に思っていたのだが、バルフレアという者の存在が、殿下の決断を促したのだろう・・・。
たとえ会えなくとも、今、アーシェの心を支えているのは彼への想いだったのだ。
ナーエが何も答えられず、ただじっとアーシェを見守っていると、ファルツ公が入ってきた。
「陛下。そろそろ式典の時間です。」
「ええ。」
アーシェは、ファルツ公と共に部屋を出た。
***
ラバナスタ王宮前広場から、大通りを通って、大聖堂までパレードが行われた。
通り沿いの建物中から花がまかれ、華やかな音楽がラバナスタ中に鳴り響いた。
3年前、アーシェは同じ道をラスラと共に向かっていた。
白い花嫁衣裳に包まれ、幸せな気持ちでラスラを見つめ、人々からの祝福を受けていた。
今は、ただ一人で、民からの祝福を受けている。
前方に大聖堂が見えてきた。
いよいよ自分は女王として即位するのだ・・・。
双肩にのしかかるものを感じながら、車を降り、大聖堂に入っていく。
身廊をまっすぐ進み、礼拝堂に入ると、すでに国内外の要人が列座しており、入り口のアーシェに目を向けた。
アーシェはカーペットを一歩ずつ、祭壇に向かって歩いていった。
祭壇には、選出されたばかりの神都ブルオミシェイスの大僧正がアーシェを待っていた。
アーシェは、大僧正の前につくと、膝をついた。
「アーシェ・バナルガン・ダルマスカ。ここに、そなたの王統を認める。大いなる父のもとに、汝の世に恵み深き神の祝福があらんことを――、ファーラム。」
アーシェの頭上に王冠が載せられた。
同時に、大鐘が鳴り響き始める。
大聖堂を出ると、市民が広場を埋め尽くしていた。
アーシェの姿が現れると、大歓声が沸きあがった。
人々の平和への願いと希望が、広場中の空気から自分に伝わり、それが力となって満ちてくるのをアーシェは感じていた。
(この平和をきっと守り抜いてみせる・・・。信じよう、私自身を・・・。)
ラバナスタの上空には、自由に鳥が羽ばたいていた。
***
その日の夜は、王宮でも宴が催された。
大きな花火もあがり、庭園から大広間にいたるまで、あちらこちらで、皆がアーシェの即位を祝っていた。
「アーシェ陛下、おめでとうございます。」
ガブラス――バッシュを伴ったラーサーが、上座に座っているアーシェの近くに、挨拶に来た。
さすがに、こうした宴席で鎧に身を包むわけにはいかず、バッシュはアルケイディス風の衣装に身を包んでいた。
シックな色とはいえ、ブリーチにフロックコートを着用するバッシュは、ダルマスカでは決して見ることができない姿であり、アーシェは思わず苦笑した。
「ガブラス殿、お似合いですわ。」
バッシュは、少し照れくさそうにしつつ、咳払いをし、改まった表情でアーシェに向き直った。
「――陛下。私も、今日の日を心からお待ちしていました。ご即位、おめでとうございます。」
生存を隠蔽され、お互い地下生活を余儀なくされた二年間・・・。
ダルマスカを復興させるために、その全てを捧げてきてくれたバッシュの祝いの言葉は、他の誰よりもアーシェの心に響くものがあった。
二人がしばし沈黙し、感慨にふけっている様子をみながら、ラーサーは声をかけた。
「アーシェさん、よろしければ、少し外でお話しませんか?」
ガブラスを伴い、ラーサーとアーシェはバルコニーに出た。
***
「どうやら、ふっきれたようですね。」
「ええ、ありがとうございます。」
「‘彼’がここに来ましたか?」
アーシェがはっとして二人を見やると、二人とも‘知っている’と言った顔で頷いた。
「パンネロから手紙が届きました。バルフレアが生きている――と。」
「アーシェさんのところにも、てっきり来たのかと思ったのです。」
アーシェは首を振って答えた。
「いいえ、私のところには・・・。もう、会うこともないのかもしれませんね・・・。でも、彼に会ったおかげで、私は自分が何のために国を再興し、どう守っていくか考えられるようになりました。女王になる決心がついたきっかけも、彼からの手紙なのです。たとえ、会えなくても、彼のことを忘れることはないでしょう・・・。」
(陛下はこういうお方だと、あれほど言っておいたのに!)
バッシュは、心の中でバルフレアに毒づきながら、目を伏せたアーシェの横顔を見つめた。
ラーサーも、軽く溜息をついたが、いつもの表情に戻り、口を開いた。
「アーシェさん、外に出ていただいたのには理由があります。即位早々申し訳ありませんが、最近西方で、空賊の動きが活発化しているのです。」
「空賊が?」
「ええ。我が国の軍縮路線により、空賊そのものが増加している面もありますが、どうもケルオン大陸の更に西方で行動しているようなのです。ロザリア帝国も、調査を開始し始めてはいますが、まだ雲を掴むような状態で・・・。それと、もう一つ気になる情報が。」
「何です?」
「これまで見たこともないようなモンスターが現れていると・・・。今、アカデミーの研究者等に声をかけ、調査団をつくったところですが、目撃情報も僅かですし、何一つはっきりしたことが申し上げられません。」
「何てこと・・・。何か、私にできることは?」
「いえ、まだ具体的な話ではありませんので、特には。ただ、情報だけは知っておいて頂きたかったのです。まだ、大きな声で言える話でもありませんし――。すみません、せっかくの祝いの席でこんな話をしてしまって・・・。」
「いいえ。これからも、お互いイヴァリースの平和のために、手をとりあっていきましょう。」
二人は、真剣な面持ちで、頷きあった。
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