FLY ME TO THE SKY

  第12章 前バレンティア歴七〇七年
 


 「うわー!俺たちの飛空艇が〜!」


 ヴァンの悲痛な声が轟く。
 バルフレアに誘われて、ようやく着いたグレバドス遺跡。
 秘宝を手に入れたと思ったら、急に遺跡が崩れ始めたのだ。
 慌てて、外に飛び出すと、自分たちの飛空艇が崖下に落ちていくではないか。


 ***


〜二週間前のラバナスタ〜


 シュトラールが消えてしまった倉庫に残された、宝飾がついたクリスタル――。


 「これって、お礼かな?」
 パンネロがクリスタルを手に抱えた。

 「最近、バザーでもクリスタルが売ってるけど、こんなに綺麗で大きいのって見たことないよ?」
 「そうだなあ〜。飛空艇代の足しになるかもしれないし・・・。幾らになるか聞いてみるか?」


 二人がミゲロに相談すると、ミゲロは、『どうやって手に入れた!』と驚きながら、宝飾品専門家を紹介してくれて、破格の値段で買い取ってもらうことができたのだ。
 「これで、一気に飛空艇が買えるぞ!」
 ヴァンは、早速、飛空艇を購入し、パンネロと一緒にベルベニアに向かったのだ。


 ***


 崖を見つめている間もなく、自分たちの足元も崩れ始める。
 二人は、バルフレアとフランの後を追い、急ぎシュトラールに向かった。
 上空に飛び立つシュトラールにつかまり何とか脱出は成功した。



 再びラバナスタに戻り、ヴァンとパンネロを降ろすと、バルフレアはもう出立の準備をしていた。
 「おい!もうすぐ、アーシェの戴冠式だぞ!会っていかないのかよ。」
 ヴァンが、バルフレアの背に声をかけた。
 「有名人は忙しいのさ。女王様によろしくな。」
 バルフレアは、振り向きもせず、軽く手をあげ、シュトラールに乗り込んでいった。
 シュトラールは、エンジンを一気に稼動すると、爆音と共に再び空へと旅立ってしまった。


 「なんだ、あいつ?」
 「本当。――素直じゃないなあ。」
 ヴァンとパンネロは、空を見上げた。


 ***


 「――さて、秘宝も手に入れたし、しばらくバーフォンハイムあたりに潜るか。」
 操縦席で、軽く首をまわし、肩をほぐすバルフレアに、フランは声をかけた。
 「本当に、よかったの?」
 「何がだ――?」
 「<女王様>に会っていかなくて。」
 バルフレアは軽く肩を竦めた。
 「あいつは、ダルマスカの女王様だ。空賊風情と関わるような真似はできないだろう。」
 「それだけ?」
 「ああ、それだけだ。」
 そう言うと、バルフレアは更に速度を上げた。


 (本当は、会うのが怖いから、でしょう・・・?)
 バルフレアの横顔を見ながら、フランは軽く微笑んだ。


 ***


 前バレンティア暦七〇七年。
 旧正月に併せて、アーシェの戴冠式が催された。


 その日は、朝から街中に人が溢れ、この新たな年を祝おうと、皆の表情は活気に満ち溢れていた。
 アーシェは色とりどりの宝玉がついた留め具で髪をまとめあげ、オフホワイトの生地を金糸で飾り上げた衣装に身を包み、王宮の自室から空を見上げていた。


 「いつも、空を見ておいでですね。」
 ナーエが部屋に入ってきた。
 アーシェは、苦笑いをして振り向いた。
 「本当に、あなたは好きなときに私の部屋に入ってくるのね。」
 二人は、顔を見合わせて笑った。


 「何か、空に忘れてきたものでもあるのですか?」
 先日、パンネロがアーシェを尋ね、何かを渡して以来、アーシェが心ここにあらずといった表情をすることが、しばしば見られたのだ。
 「いえ、忘れたものなどはないわ。むしろ、忘れられないものがある・・・、かしらね。」
 アーシェの表情を見て、ナーエはようやく納得がいった。


 −バルフレアが生きている−


 その話を、パンネロがアーシェにしているところをナーエは立ち聞きしてしまったのだ。
 その後、アーシェは、女王になることを決意し、今日の戴冠式を迎えることができた。
 あれほど、迷っていたのに、何が殿下をそうさせたのだろう、とナーエは不思議に思っていたのだが、バルフレアという者の存在が、殿下の決断を促したのだろう・・・。
 たとえ会えなくとも、今、アーシェの心を支えているのは彼への想いだったのだ。


 ナーエが何も答えられず、ただじっとアーシェを見守っていると、ファルツ公が入ってきた。
 「陛下。そろそろ式典の時間です。」

 「ええ。」

 アーシェは、ファルツ公と共に部屋を出た。


 ***


 ラバナスタ王宮前広場から、大通りを通って、大聖堂までパレードが行われた。
 通り沿いの建物中から花がまかれ、華やかな音楽がラバナスタ中に鳴り響いた。


 3年前、アーシェは同じ道をラスラと共に向かっていた。
 白い花嫁衣裳に包まれ、幸せな気持ちでラスラを見つめ、人々からの祝福を受けていた。
 今は、ただ一人で、民からの祝福を受けている。


 前方に大聖堂が見えてきた。
 いよいよ自分は女王として即位するのだ・・・。
 双肩にのしかかるものを感じながら、車を降り、大聖堂に入っていく。


 身廊をまっすぐ進み、礼拝堂に入ると、すでに国内外の要人が列座しており、入り口のアーシェに目を向けた。
 アーシェはカーペットを一歩ずつ、祭壇に向かって歩いていった。
 祭壇には、選出されたばかりの神都ブルオミシェイスの大僧正がアーシェを待っていた。
 アーシェは、大僧正の前につくと、膝をついた。


 「アーシェ・バナルガン・ダルマスカ。ここに、そなたの王統を認める。大いなる父のもとに、汝の世に恵み深き神の祝福があらんことを――、ファーラム。」


 アーシェの頭上に王冠が載せられた。
 同時に、大鐘が鳴り響き始める。


 大聖堂を出ると、市民が広場を埋め尽くしていた。
 アーシェの姿が現れると、大歓声が沸きあがった。
 人々の平和への願いと希望が、広場中の空気から自分に伝わり、それが力となって満ちてくるのをアーシェは感じていた。


 (この平和をきっと守り抜いてみせる・・・。信じよう、私自身を・・・。)


 ラバナスタの上空には、自由に鳥が羽ばたいていた。


 ***


 その日の夜は、王宮でも宴が催された。
 大きな花火もあがり、庭園から大広間にいたるまで、あちらこちらで、皆がアーシェの即位を祝っていた。


 「アーシェ陛下、おめでとうございます。」
 ガブラス――バッシュを伴ったラーサーが、上座に座っているアーシェの近くに、挨拶に来た。


 さすがに、こうした宴席で鎧に身を包むわけにはいかず、バッシュはアルケイディス風の衣装に身を包んでいた。
 シックな色とはいえ、ブリーチにフロックコートを着用するバッシュは、ダルマスカでは決して見ることができない姿であり、アーシェは思わず苦笑した。
 「ガブラス殿、お似合いですわ。」
 バッシュは、少し照れくさそうにしつつ、咳払いをし、改まった表情でアーシェに向き直った。
 「――陛下。私も、今日の日を心からお待ちしていました。ご即位、おめでとうございます。」
 生存を隠蔽され、お互い地下生活を余儀なくされた二年間・・・。
 ダルマスカを復興させるために、その全てを捧げてきてくれたバッシュの祝いの言葉は、他の誰よりもアーシェの心に響くものがあった。


 二人がしばし沈黙し、感慨にふけっている様子をみながら、ラーサーは声をかけた。
 「アーシェさん、よろしければ、少し外でお話しませんか?」

 ガブラスを伴い、ラーサーとアーシェはバルコニーに出た。



 ***



 「どうやら、ふっきれたようですね。」
 「ええ、ありがとうございます。」
 「‘彼’がここに来ましたか?」


 アーシェがはっとして二人を見やると、二人とも‘知っている’と言った顔で頷いた。



 「パンネロから手紙が届きました。バルフレアが生きている――と。」
 「アーシェさんのところにも、てっきり来たのかと思ったのです。」


 アーシェは首を振って答えた。
 「いいえ、私のところには・・・。もう、会うこともないのかもしれませんね・・・。でも、彼に会ったおかげで、私は自分が何のために国を再興し、どう守っていくか考えられるようになりました。女王になる決心がついたきっかけも、彼からの手紙なのです。たとえ、会えなくても、彼のことを忘れることはないでしょう・・・。」


 (陛下はこういうお方だと、あれほど言っておいたのに!)
 バッシュは、心の中でバルフレアに毒づきながら、目を伏せたアーシェの横顔を見つめた。

 ラーサーも、軽く溜息をついたが、いつもの表情に戻り、口を開いた。


 「アーシェさん、外に出ていただいたのには理由があります。即位早々申し訳ありませんが、最近西方で、空賊の動きが活発化しているのです。」
 「空賊が?」
 「ええ。我が国の軍縮路線により、空賊そのものが増加している面もありますが、どうもケルオン大陸の更に西方で行動しているようなのです。ロザリア帝国も、調査を開始し始めてはいますが、まだ雲を掴むような状態で・・・。それと、もう一つ気になる情報が。」
 「何です?」
 「これまで見たこともないようなモンスターが現れていると・・・。今、アカデミーの研究者等に声をかけ、調査団をつくったところですが、目撃情報も僅かですし、何一つはっきりしたことが申し上げられません。」
 「何てこと・・・。何か、私にできることは?」
 「いえ、まだ具体的な話ではありませんので、特には。ただ、情報だけは知っておいて頂きたかったのです。まだ、大きな声で言える話でもありませんし――。すみません、せっかくの祝いの席でこんな話をしてしまって・・・。」
 「いいえ。これからも、お互いイヴァリースの平和のために、手をとりあっていきましょう。」


 二人は、真剣な面持ちで、頷きあった。


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