FLY ME TO THE SKY

  第11章 手紙
 

 

 
「だめだ、だめだ!お嬢さん、中に入れるわけにはいかないよ!」


 王宮前の門番は、王女に会いたいとやってきた少女を門前払いしていた。
 「お願いします!『パンネロが来た』って言ってもらえれば、わかりますから!」
 引き下がらずに、なにやら口論をしている様子に、一人の将校が近づいてきた。


 「いったい何をしているんだ?」
 「ハウゼン様!この娘が、殿下に会わせろとしつこいものですから・・・。」
 門番の後ろから、金髪の少女が顔を出した。
 「―――。パンネロ嬢?」
 「ハウゼン・・・さん?」
 二人は顔を見合わせた。

 
 「いやあ、お久しぶりですね。ビュエルバ以来でしょうか・・・。女性は、しばらく見ないと本当に綺麗になりますね!」
 「やだ、もう・・・。でも、私もぜんぜんわかりませんでした。鎧を変えたんですか?」
 「ええ、ラバナスタも長くなりましたし、この方が自分に合っているようです。」


 ジャッジは、通常、頭から足先まで隙間なく兜から鎧、小手、すねあてまでしっかりと覆われた堅固な出立ちが特徴的なのに、今のハウゼンは、兜に肩甲、胸甲、脛当に革サンダルといった、軽微なダルマスカ風の装備であった。


 「こちらは、暑くてかなわないし、赴任期間が長くなった兵は、皆このような格好ですよ。今では、ダルマスカ兵もアルケイディア兵も区別がつかなくなってしまいましたね。ところで、今日は殿下に何か御用でも?」
 「はい、直接会って、お渡ししたいものがあるのです。」
 「ほかならぬ、パンネロ嬢の頼みなら仕方ありませんね。では、しばらく別室でお待ちいただきましょう。」
 ハウゼンは、パンネロを貴賓室に案内した。


 ***


 随分、待っていると、部屋をノックされ、アーシェが入ってきた。
 二人は挨拶を交わすと、早々に用件に入った。


 「ところで、今日は突然どうしたの?」
 「アーシェ様、実は、これをお届けしたくて参りました。」
 パンネロが革の袋を取り出す。


 中にはカードと指輪が一つ。


 「これは・・・?」
 「はい、アーシェ様。空賊からのお返し物です。」
 カードを取り出し、目をやると、そこにはシュトラールのマーク。
 裏をめくると、“追伸:こいつを<女王様>に渡しといてくれ”と書かれてあった。


 アーシェの心臓が大きく波を打ちはじめる。
 一瞬、目の前が真っ白になったかと思うと、急に目頭が熱くなった。


 (バルフレア・・・、生きていたの!)


 口元に手をあて、じっとカードを見つめるアーシェに、パンネロが声をかけた。
 「先日、シュトラールが盗まれました。恐らく‘持ち主’に・・・。そこに、この手紙と指輪がおいてあったんです。」
 アーシェは、指輪を手に取った。
 「たしか、『もっといい宝物を見つけたら指輪を返す』って、バルフレアさん、言ってましたよね?――――ラバナスタは、本当に元通りになりました。私たちが大好きだったラバナスタに・・・。そして、こんな街にしてくれたのは、アーシェ様です。‘今’のために生きているアーシェ様と、元気なラバナスタ・・・。それが、バルフレアさんの言う宝物なのかな、って、私、思うんです。」
 「パンネロ・・・。」
 「<女王様>に渡してくれ、って言うのは、バルフレアさんから見て、アーシェ様はもう立派な女王様だからなんですかね。」


 ――アーシェなら自力で逃げきってみせるだろ。――


 空賊として‘逃げる’ことからはじまったバルフレアの人生は、破魔石を巡るあの旅で、実の父と向き合い、亡くし、終には‘自分の道’によって逃げきってみせることとなった。
 その彼から、お前も逃げきるんだ、と励まされたあの日から、もうすぐ一年。
 どこかで、私を見て、女王と認めてくれたのかもしれない・・・。
 この指輪は、彼からのエールなのだ。


 パンネロは、アーシェの様子をじっと見ていた。
 以前に市街地を一緒に歩いたときも、今日貴賓室に入室してきたときも、アーシェの表情はどこか固かった。
 でも、今、カードと指輪を大切そうに胸に抱えている彼女は、本当に柔和で穏やかな表情である。
 (バルフレアさんって、本当にすごいなあ。)
 二人の見えない絆が、少しうらやましかった。



 ***


 「じゃあ、失礼します!」
 明るく出て行くパンネロを見送ると、アーシェはバルコニーに出た。


 指輪をテーブルに置くと、もう一度、カードに目をやった。
 (どうせなら、直接渡してくれればいいのにな・・・。)
 そう思いつつ、空を見上げた。
 今日も、雲一つない快晴である。
 (今頃、どこの空を飛んでいるのかしら・・・)
 快音を発して、空を巡るシュトラールのことを思い浮かべた。


 「殿下、お客様は帰られたのですか?」
 いつの間にか、ナーエが部屋に来ており、バルコニーに立つアーシェに声をかけた。
 「ナーエ・・・。」
 「何ですか?殿下。」


 「私、女王になるわ。」


 振り向いたアーシェは、穏やかな表情の中に、強い意志が感じられる瞳でナーエを見つめた。


 ***


 帝都アルケイディスで政務を続けるラーサーの元に、一通の手紙が届いた。
 送り主はダルマスカのパンネロだった。


 (本当に手紙をくれたんですね。)
 ラーサーは封をきると、手紙を読み出した。


 「お呼びですか?」
 執務室にジャッジ・ガブラス――バッシュが入ってきた。
 「うん。」
 ラーサーは、バッシュに手紙を手渡すと、インプルビウム縁にたたずんだ。
 バッシュは、一通り目を通す。


 「ローゼンバーグ将軍、あなたはやはりアーシェ殿下の許にいていただいた方がよかったのではないでしょうか?」
 ラーサーがつぶやいた。
 バッシュは近づき答えた。
 「いえ、遅かれ早かれ、殿下が通る道です。私は殿下を信じておりますし、今の殿下に必要なのは、私ではありません。」


 「・・・、そうですか。ところで、パンネロさんの話では、バルフレアさんが生きていたようですね。第9局には情報が入っていましたか?」
 「最近は、防空体制の見直しの影響で、空賊が増加し、誘拐や強奪等を行う悪質な空賊の取締りを強化しているところです。そのため、バルフレアのような財宝を捜し求めるタイプの空賊については情報があまり入らないのが実情です。正直なところ、彼の生存も、今、初めて知った次第です。」
 「わかりました。でも、シュトラールがいよいよ動き出すとなると、我々の情報網にもかかってくるでしょう。あの飛空艇(フネ)はよく目立つ・・・。」


 「了解いたしました。――ところで、陛下。ラバナスタには赴かれるのですか?」
 「えっ!そ、それは、もちろん、うかがいます。アーシェさんには、私の戴冠式にも来て頂きましたし・・・。卿にも同行願いますよ。」
 「承りました。私‘も’、新人空賊にお会いするのを楽しみにしていますので。」



 ――戴冠式であなたと再会できるのを楽しみにしてる――


 (殿下もわかりやすい方であったが、陛下も同じくらいわかりやすい方だ・・・。)


 耳を少し赤くしているラーサーを見ながら、バッシュは微笑した。


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