FLY ME TO THE SKY

  第10章 帰還
 

 

 
アルケイディア帝国から帰国してしばらく経った後、ロザリア帝国を訪問する日が近づいていた。
 アルケイディスでも、アルシドとは顔を合わせているのだが、
 ――姫、私よりも、この少年に先に会いに来るなんて。あんまりですな。――
と、督促されたのだ。


 ***


 オーダリア大陸の中央部にある肥沃な平原を中心としたロザリア帝国には、多くの氏族が存在するが、現在は、北東部に本拠地を構えるマルガラス家が帝政を敷いている。
 ダルマスカ西方はヤクト・エンサが広がっているが、アルケイディアのヤクト対応型飛空石の開発により、砂漠や砂海程度であれば飛べる飛空艇が増えてきたのである。
 アーシェは、その飛空艇に乗って、琥珀の谷に向かった。

 アーシェの訪問にあたっては、ナーエが護衛として同道していた。
 最初は、バルザックが同行すると言って聞かなかったのだが、ナーエは、ダルマスカ家の皇子・皇女に剣術師範として仕える腕前なのである。
 「アルシド殿の周囲は女性が多いと聞きます。無骨なあなたが、始終、殿下の周辺警護ができると思って?」
 そう言われては、バルザックも承諾せざるを得なかったのだ。 


 ***


 首都‘琥珀の谷’は、レイスウォール王墓から更に西方、ロザリア国境付近の大峡谷に囲まれた場所に位置している。
 地形を巧みに利用して構築されたその首都は天険の要塞と呼ぶに相応しいものであった。


 ターミナルに到着すると、アルシド自らが部下と共に出迎えてくれた。
 「アーシェ殿下、遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。」
 アルシドは諸手をあげて、歓迎の抱擁をしようと近づいたが、アーシェのすぐ横にナーエが見下ろす角度で立ちすくんでいることに気づくと、彼女の右手を手にとって挨拶をするに留めた。


 「ヴィエラ族の戦士ですか。こんなにお美しいのに、随分勇ましい姿ですな。」
 「お褒めにあずかり光栄です。白甲冑が、私を最も引き立たせるものですから。」
 若干、視線で火花を散らすと、アルシドはアーシェを振り向き、肩に手をまわした。
 「では、姫、参りましょう。」
 そう言って、アーシェを伴い、ターミナル出口に向かって歩き始めた。


 ***


 「姫、この度の滞在期間中は、私が全面的にエスコートをさせて頂きます。」

 宮殿に案内され、一息ついた後の食事の席のことであった。


 「それは、ありがたいのですが、皇帝陛下には、いつお会いできるのですか?」
 「それがですね、姫――。今回は、ただ、私と共にずっとお過ごし頂きたいのですよ。」
 アルシドが、流し目にこちらを見る。
 「えっ!」
 アーシェは、一瞬、どきりとしながら、アルシドを呆然とした顔で見やった。


 まさか、バルザックの勘繰りどおりなのか?


 鼓動を早まるのを感じ、努めて冷静にしたつもりであったが、アーシェの硬くなった表情を見て、アルシドは急に笑い出した。
 「失礼・・・!姫はやはり可愛い方であられますな。」
 むっとした顔で見返すが、アルシドは一頻り笑い、急に真面目な表情になった。



 「姫、貴女の気持ちは嬉しいのですが、私には別の理由があるんですよ。」
 「別の理由?」
 「ええ、貴女がご存知のとおり、アルケイディア帝国と我がロザリア帝国は対立関係が緩和したとは言え、必ずしも仲の良い関係ではありません。ところで、ダルマスカの王女であらせられる姫は、アルケイディア帝国の同盟相手の元首です。マルガラス家の中には、貴女をこの機会に‘何とか’したいと思う者もいるわけですな。」
 「・・・。」
 「もちろん、貴女も用心して、あの腕の立つ鋭い目をした部下をお連れになったのでしょうけど、正直、 彼女一人でしのげるほど、我が国の部隊も間抜けではありません。あくまで、今回の旅は『大切な友人の私を個人的に訪問し、我々は更なる友情を深める』ためのものであり、他の者に会う必要はない、とした方がお互いのためでしょう。皇帝陛下は、帝国においては鷹も鳩も飼わなくてはなりませんからね。鳥たちはどうしても足をひっぱりあう習性がありまして、我々は、少し離れた場所で友情を深めておく必要があるのですよ。」


 「なるほど。これも貴方流の‘平和への布石’なわけですね。」
 意を得たりという表情で、アルシドは両手を組んだ。
 「ええ。姫は、私の腕と可愛い‘小鳥たち’に囲まれて、楽しい休暇をお過ごしください。」
 「‘小鳥たち’は安心できるけど、貴方の腕はどうかしら?」
 「さすがに、王女様はお強いですな。」

 そう言うと、二人はディジェスチフのグラスを掲げた。


 「我々の友情に――。」
 「イヴァリースの平和に――。」 


 ***


 翌日は、すっかり観光といった形で、帝都を見てまわることができた。
 ダルマスカは、多文化が融合した無国籍風の雰囲気が特徴的だが、ロザリアの場合は小国家の集合体という特徴のため、帝都も居住ブロックによって雰囲気が全く異なっていた。
 髪型、衣服の形や素材等、それぞれの出身地の色合いが濃くでていた。
 都の名所を巡っているうちに、陽が西に向かい始めた。
 「では、そろそろ谷に向かいましょうか。」
 専用ターミナルに向かい、一行は小型飛空艇に乗り込んだ。

 「姫、そろそろ下をご覧ください。」
 アルシドに促され、窓に近づくと、大峡谷が視野いっぱいに現れた。


 神々の時代から流れ続けた急流の本支流が大地を張り巡らし、それらが大地を抉り続け、これだけの峡谷を築き上げたのであろう。絶壁と様々な色の奇岩に彩られた景観はまさに圧巻であった。
 また、傾き始めた陽が、岩肌の隙間を縫って白波を見せる急流に反射し、峡谷全体が金色に輝いていた。


 「すごい・・・。」
 「すばらしい眺めでしょう。夕日に輝くこの瞬間しか見ることができない琥珀の谷です。」
 「ええ、本当に来てよかった――。」
 「姫、驚くのはこれからですよ。」


 ほどなく、飛空艇は高度を下げ、谷の西側に位置する丘に降りた。

 丘には、部下がチョコボを用意して待機していた。
 「ここから少し移動します。足元にお気をつけて。」
 後をついて、二十分程度移動しただろうか。チョコボを降り、アルシドの手を借りて大岩の頂上に登りあがった。


 「わぁ・・・!」


 目の前には深紅色の世界が広がっていた。奇岩も岩肌も、赤く光り輝き、まるで巨大な柘榴石が乱立しているかのようであった。遥か真下の川面は光を反射しながら唐紅色に染まっていた。

 アーシェが絶景の前にただ屹立していると、アルシドが首筋に手をかけた。
 「姫、今日の記念に、あの石を贈りましょう。」
 そう言うと、大粒のガーネットがあしらわれたチョーカーをつけた。


 「貴女には、やはり紅色がお似合いですな。」
 「ありがとう、大事にします。」
 陽は更に暮れ始め、風景は臙脂色に変わり始めていた。


 ***


 同じ夜、ラバナスタ飛空艇ターミナルに来る定期便も終わり、人がまばらになりかけた頃、緑色のつなぎ服を来たモーグリが個人用ターミナル受付に走ってきた。


 「あら、ノノさん、こんな遅くにどうなさったんですか?」
 「ちょっと遅いけど、旅立つクポ。後はよろしくクポ。」
 「ヴァンさんはご一緒じゃないんですの?」
 「・・・。また、会うことになってるクポ。じゃ、ばいばいクポ。」
 ノノは、そう言うと、カウンターから飛び降り、倉庫に向かっていった。


 倉庫には、若いヒュムの男性と、黒い甲冑に身を包んだヴィエラが立っていた。
 
 ***


 「ヴァン!大変!!起きて!」
 大きな声をあげて、パンネロはヴァンの部屋に飛び込んできた。
 ヴァンは、声に驚きベッドから跳ね上がると、扉口で息をあげているパンネロを見やった。


 「ったく、何だよ。朝っぱらから――。」
 「あの・・・、飛空艇ターミナルの受付の人・・・、えーと、名前は何だっけ?」
 「落ち着いてしゃべれよ。」
 「そうそう、とにかく――。ノノさんが旅に出ちゃったらしいの〜!」
 「えー!マジかよー。」

 ヴァンは慌てて着替えると、パンネロと共に飛空艇ターミナルへ向かった。


 パンネロは、今朝方、バザーで買い物をしていたところ、偶然、飛空艇ターミナルの受付係の女性に会って声をかけられたらしい。
 − ヴァン君は、どこか旅に出たの? −
 そう尋ねられ、話を聞いたところ、ノノが昨夜個人ターミナルからシュトラールで出て行ったと言うのだ。それで、驚いて、慌ててヴァンのところに飛び込んできたのだ。



 倉庫の扉を開けて、中に飛び込むと、そこは空っぽになっていた。
 「えー、どうしよう〜。ヴァン〜。」
 パンネロがオロオロしていると、ヴァンは倉庫の中に、何か浮かんでいるのを見つけた。近づいてみると、大きなクリスタルであった。
 (何だ、これ?)
 クリスタルに、革の袋がくっついている。はがして中身を取り出して、目をやった。
 「何――?貸してっ!」
 「っと!」
 パンネロが中に入ったカードを持っていってしまった。
 仕方なく、ヴァンが革の袋をもう一度確認すると、何かが入っている。
 袋を傾け、右手に中身を出すと、銀色の指輪が出てきた。


 「キャー!!」
 大声をあげて、パンネロが駆け寄ってきた。
 「生きてたんだー!!」
 背中に飛びつき、大はしゃぎである。
 「何だよ、おい?」
 「これ見て、これ!」


 “グレバドスの秘宝を見つけた ベルベニアで待つ”


 そう書かれた下に、見覚えのあるマーク。シュトラールだった。

 口をパクパクさせながら、ヴァンはパンネロを見た。
 「これって、もしかして・・・。」
 「そうよ!バルフレアとフランよ!やっぱり生きてたんだ!」


 二人で一頻り騒いだ後、ヴァンが、ふと我にかえった。
 「あれ――?ところで、これって何だ?」
 そう言うと、パンネロに指輪を見せる。
 パンネロは、何だろう−?と言いながら、カードをもう一度確認すると、裏に何かが書いてあった。


 “追伸:こいつを<女王様>に渡しといてくれ”


 「じゃあ、これって、あの時の!」
 「あの時――?」
 「そうよ。ほら、リヴァイアサンから脱出した後、ガリフの里に行きたいって、アーシェが言い出したじゃない。その時に、バルフレアが報酬としてアーシェからもらった時の――。」
 「そうだっけ?」
 「もう!ホントわかってないなー。」


 これは、アーシェがずっと大切にしていた結婚指輪。何かあると、彼女はこの指輪に触れ、思いつめた表情をしていた。
 そんな様子を見ていたバルフレアは、わざとこの指輪を‘報酬’に選び、取り上げたのだ。


 「これを、持ち主に返してもいいってわけね。」
 「でもさ、パンネロ――。報酬を返しちゃって、バルフレアはいいのか?一ギルの得にもならないだろ?」
 「そうだなあ。――何か、もっといい‘宝物’でも見つかったんじゃないの〜?」
 「ふーん。いつの間に、そんなの見つけたんだ?」
 とりあえず、これは持ち主に届けたほうがいい、と二人は話し合い、パンネロがアーシェに届けに行くことにした。

 「ヴァン、早くお金稼がないと、ベルベニアにいけないよ!」
 「そうだな、気合入れて稼ぎに行くか!」


 二人は、すっかり太陽があがったラバナスタの街に戻っていった。 


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