FLY ME TO THE SKY

 第1章 暁の光
 

 

 轟音と共にバハムートが西の空に沈んでいく姿を、ヴァンたちはシュトラールのコックピットからずっと見つめていた。 
 しかし、火煙に包まれたバハムートから、再びバルフレアとフランが出てくることはなかった。



 ***



 アーシェとラーサーを乗せたシュトラールは、空母ガーランド艦の艙口に降り立ち、オンドール侯爵に迎えられた。
 「アーシェ様!ご無事で何よりです。」

 「おじさま。ご心配をおかけしました。」

 シュトラールから降り立ったアーシェは、今にも崩れ落ちそうな自分を気力で奮い立たせながら、凛とした声で答えた。


 「ラーサー殿と停戦を合意したとうかがいましたが・・・?」

 「そのとおりです。」

 アーシェの後から、甲板に降りたラーサーが声をかける。

「できれば、詳しい話をお伝えしたいのですが、今は皆が憔悴しきっています。もし、よろしければ貴国に一時逗留させていただきたいのですが、いかがでしょうか?」


 実際、アーシェの顔色は蒼白になっており、あまり話を聞ける状態にはなさそうであった。
 何より、この戦いを終結させた最大の功労者である彼らに休息を与えることは礼儀であるとオンドール候は判断した。

 
 「・・・わかりました。では、ビュエルバの飛空艇ターミナルには連絡をしておきましょう。それでよろしいかな?」
 
 「ありがとうございます。では、我々はこれからシュトラールでビュエルバに向かいます。行きましょう、アーシェさん。」
 
 「・・・ええ。」


 アーシェはラーサーに促され、再びシュトラールへと乗り込んだ。
 

***
 

一行がオンドール候の屋敷に通された頃には、すっかり夜の帳が下りていた。

侯爵らの計らいで、今夜はゆっくり休み、明日にでも事情の説明をすることとなった。


シュトラールでビュエルバに向かう途中、ラーサーは手際よく諸事を進めた。
 まず、ジャッジ・ザルガバースに指示し、アルケイディア軍を本国に帰還させ、西方艦隊の一部のみをビュエルバ近辺に待機させた。
 また、ロザリアのアルシドとの調整により、ロザリア軍もダルマスカ王国から撤退することとなり、アルシド本人がロザリア帝国代表として急遽ビュエルバに向かい、本格的な戦後処理の会談を行うこととした。

尊敬していた実の兄をあんな形で失ったばかりなのに為政者としての胆力をみせるラーサーを見ながら、アーシェは自分がいかに家臣や仲間に頼ってきたかを痛感していた。

「アーシェさん、僕達はこれからが正念場です。今夜まではゆっくりお休みください。でも、明日からは・・・。」

「・・・わかっています。」



***


 湯浴みをし、寝台に横になっても寝付けなかった。
 何時間たっただろうか、横になるのも苦痛になり、寝室からバルコニーに出ると、冷えた空気が頬をなでていく。
 屋敷を囲む魔石はそれ自体が輝いており、空が明るく見えた。


(・・・バルフレア。)


声にならない声で彼の名を呼んだ。涙があふれ、頬を伝っては手すりに落ちる。


―― そのうち返すさ。もっといいお宝を見つけたらな。 ――

―― あんたの心、石なんかにくれてやるなよ。 ――


ダルマスカのためと言いながら、結局自分のためにあがき続けていた自分。
 帝国に復讐することだけを正義と信じて疑わなかった自分。
 ようやく、過去を受け入れ、前に向かっていこうと思った矢先だったのに・・・。


(踏み出す私を見てほしかった・・・)


咽ぶ声が辺りの静けさに響いていた。


 ***


どれほどの時間がたっただろうか。
 涙も枯れ、気づけばバルコニーに立ち尽くしていた。


魔石が鴇色に輝き始めた。
 夜明けの準備を空が始め、微かに鳥の鳴き声も聞こえ始める。
 月も暁色に染まり、うっすらと消えていく。


 ―― 王女様はお強いんだ。 ――


 彼の言葉が脳裏によぎる。


(そこまで強いわけではないのよ。)


自嘲的に笑いながらも、残された自分が成すべきことに想いを馳せた。


「あなたが守ってくれたものは、私が守ります。」

空を見上げながら、アーシェは呟いた。


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