Vacations in The Phon Coast

  第4話
 


 「今日の夕食は、外でとりましょう。」
  
 ラーサーの一言で、今日は浜辺で食事をとることとなった。
 しかし、つくづくソリドール家の給仕たちは手際が良い。
 室内でとる食事並みのセッティングが浜辺に持ち込まれている。
 シェフも外に出てきていて、簡易キッチンで仕上げをしながら、タイミングよくディッシュがテーブルに並べられていく様に、感心した。
  
 「ラーサー様はいつも、こんな食事を召し上がってるんですか?」
 パンネロが尋ねると、ラーサーは頭を振った。
 「いえ、“仕事”として食事を取ることが多いものですから。こうして、大勢で食事をするのは久しぶりですよ。」
 「そうですか。やっぱり皇帝のお仕事って大変なんですね・・・。」
 「そんなことはありませんが、こうした食事をしばしば楽しめるといいですね。」
  
 (そう、しばしば付き合ってるわけにはいかないんだが・・・。)
 心の中で毒づきつつも、今日は借りがあるので、バルフレアは黙っていた。
  
 ***
  
 食事も終わりとなり、皆で食後のディジェスチフやドルチェ(コドモ向け)を楽しんでいると、執事がラーサーに声をかけた。
  
 「皆さん、支度ができたようなので、あちらをご覧ください。」
 そういって、ラーサーは沖を指差した。
 「何が始まるんだ?」
 「それは、見てのお楽しみですよ。」
  
 執事がランプをかざす。
 すると、沖の方から、一斉に光があがりだした。
  
 「うわ〜!」
 「すごーい!!」
  
 大きな音と共に、光の華が空を照らしだす。
 次々と繰り出される様は圧巻だ。
 夜空に打ち上げられるだけではない。ボートが水平線を横切ったかと思うと、連続して、半円形の光が放たれ、海に映る姿が見事である。
  
 ヴァンたちは、波打ち際に走っていくと、大騒ぎをしながら花火を見ている。
 アーシェは、走り出しはしなかったが、空を見上げてうっとりしている。
 赤や青の光が、彼女の輪郭を照らす様を眺めていたら、ふと彼女と目が合った。
 立ち上がって、彼女の手を取り、誘い出す。
 波打ち際を少し歩いて、皆と離れたところに腰を下ろした。
  
 ***
  
 「本当に綺麗ね。」
 「ああ。」
 「そういえば、私たちが初めて会った日も、花火があがっていたのよね?」
 「そうだったか?」
 「そうよ。お互い、花火なんて見ている余裕はなかったけど・・・。」
  
 初めて会ったのは、ヴェイン・ソリドールのラバナスタ執政官就任記念パーティの夜だった。
 俺も彼女も、『宴で警備がゆるむ』という情報にまんまと乗せられ、痛い目にあい、何とか逃げ込んだガラムサイズ水路で出会ったのだ。
  
 「そういや、お前、随分きつい顔してたなあ。」
 「あなただって、迷惑そうな顔をしていた気がするわ。」
 「まあ、あの状況じゃ、お互い様ってことだな。」
 「そうね、“盗賊”'さん。」
 二人で苦笑する。
 「あれから、二年になるか・・・。」
  
 バハムート戦役、レムレース戦役と大きな戦を経て、今のイヴァリースは本当に平和である。
 むしろ、あの戦いが夢であったかのような気もするが、決してそうではない。
 彼女やラーサー(腹は立つが)、アルシド(もっと腹が立つが)が、努力してこの平和を守っているからである。
  
 「ねえ・・・。」
 「ん?」
 「今まで、いろいろあったし、いいことばかりというわけじゃなかったけど――、」
 「・・・。」
 「あなたに出会えて、本当によかった。」
 アーシェは、そう言うと、両腕をバルフレアの首に絡めた。
 「お願い。ずっとそばにいてね・・・。」
 「ああ。」
  
 俺は、彼女の細い背中を抱き寄せ、頷いた。
 重責を抱える細い双肩・・・。
 彼女を支えてやりたい、と心の底から思っていた。
  
 ***
  
 夜も更けて、ヴァンたちは、別荘の部屋に戻っていったが、アーシェと二人で、北の方にあるというコテージに向かった。
 歩いていくと、程なくコテージ群が見えてくる。
 十棟近くはあるだろうか。
 そのうちの一つに入る。
  
 コテージとはいえ、つくりがしっかりしているのは流石である。
 概観は、一見、普通のロッジのようだが、中に入ると、家具も床も磨きこまれているのがよくわかる。広さは、昨日泊まったゲストルームと然程変わらず、キッチンが備えられている点が違うくらいだ。
 まあ、今晩一晩だけのことなので、これだけのファシリティがあれば十分だ。
  
 「私、先に入らせてもらうわね。」
 そう言って、アーシェはバスルームに行ってしまった。
 リビングを通って、奥にある主寝室に入る。
 寝室からはウッドデッキに出られるようになっており、ガラス扉を開けると、潮の香りが部屋に入ってきた。
 空には月が出ていて、うっすらと海を照らしている。
  
 ***
  
 「ありがとう。空いたわよ。」
 白のバスローブを身につけ、浴布で髪を拭きながら、彼女は部屋に入ってきた。
 「先に寝てて構わないぜ。」
 「本当に寝てたら、あなた怒るんでしょう?」
 アーシェは一笑した。
 「先に、“入ってる”から。」
  
 俺は、頭をかきながら、バスルームに向かった。
  
 ***
  
 バスルームを出ると、アーシェは既にベッドに潜り込んでいた。
 「寝たのか?」
 声をかけると、彼女は目を開けてこっちを見ると微笑した。
 「寝てない。」
  
 フラット・シーツに手をかけ、バングルだけを身につけている彼女の横に滑り込む。
 「お待たせしました、女王陛下。」
 「いいえ、構わなくてよ。」
 アーシェはそう言いながら、左手で髪をなでてくる。
  
 「待たせると、平手打ちされるかもしれないしな。」
 あのローゼンバーグ将軍を引っ叩いている姿には驚いたが、強気なところも彼女の魅力である。
 「なあに?あなたもされたいの?」
 笑いながら頬を撫でる彼女の左手を、自分の右手で捕まえ、彼女の頭上に押さえこむ。
  
 「悪いが、俺は“攻め”の方が好きなタイプでね・・・。」
 「・・・じゃあ、“攻め”て。」
  
 彼女に覆い被さると、口を塞いだ。
  
  
 ――――――――――・・・
  
 ***
  
 ――ジリリリリ・・・――
  
 玄関ベルの音である。
  
 「どうするの?」
 「出ない。」
 「いいの?」
 「放っておけ。」
  
 ――ジリリリリ・・・――
  
 「出たほうがいいんじゃない?」
 「ったく、しつこいな!」
  
 ローブを羽織り、寝室の扉を閉めて、玄関扉に向かった。
  
 ***
  
 「誰だ!いったい!!」
 語気を荒げて扉を開けると、立っていたのはアルシド・マルガラスであった。
  
 「なんで、あなたがここにいるんですかぁ?」
 「それは俺の台詞だ!」
 アルシドは、入り口からリビングを覗き込むと、コテージに入ってこようとする。
 「おい!何なんだ、あんた?入ってくるなよ。」
 慌てて、奴の肩を掴んで足止めする。
 「奥にいるのはウチの秘書ではないのですか?」
 「そんなわけあるか!」
 「本当ですか?」
  
 とんだ濡れ衣、着せないでくれよ!
  
 「おかしいですねぇ。間違ったかな?」
 「何を?」
 「いえ、私は此処に来るといつも複数のコテージを借りるものですから・・・。明かりがついていたので、てっきりココもそうだと思いまして・・・。」
 「は?」
 「ほら、ウチの秘書たちを同じ建物に泊めると、何かと都合が悪いじゃないですか?だから、このビーチに来ると、いつもバラバラでコテージに休ませるんですよ。まさか、貴方がこのコテージを借りてるとは思わなかったから・・・。確認しますが、奥にいるのは、本当にウチの秘書じゃないんですね?」
 「しつこい!」
 奥にはアーシェがいるから、「ほら、どうぞ」と見せるわけにはいかない。
  
 「ほら、あなたって手が早そうですからね〜。昼間だって、ウチの秘書たちのことよく観察してたでしょう?あなたが指差したりしたものだから、彼女たち、『カレ、結構いいんじゃない?』なんて、陰で言ってたみたいですよ。」
  
 知るか!
  
 「そういう理由があるものですから、私も少々疑ってしまうわけですなぁ。」
 「あんたと一緒にしないでくれ!」
 「また、そんなこと言って〜。一緒に行きたいのなら、私は構いませんよ?」
 「用事が済んだら、さっさと出て行ってくれ!」
 奴の背中を押して締め出すと、扉を乱暴に閉め、鍵をかけた。
  
 それにしても、ああやってコテージ巡りとは、色々な意味で恐れ入ったものだ。
 軽く溜息をついて、寝室の扉を開ける。
  
 ***
  
 「あれ?」
  
 ベッドの上では、アーシェが背中を向けて起き上がっていた。
 しかも、寝巻きまで着て・・・。
  
 「どうした?」
 「二枚目は大変ね。」
  
 拗ねた顔してあさっての方向を見ている。
 この表情を見せるときには、大体、何を言っても聞きそうにない。
  
 「何を怒ってる?」
 「別に・・・。」
  
 まいったな――。
  
 「俺が何かした?」
 「ううん。」
 「出かけた方がよかったのか?」
 「いや。」
 「じゃあ、何?」
 「何でもない。でも、気が削がれたから・・・、もう寝る。おやすみ。」
 そう言うと、ブランケットをかぶり、背中を向けて横になってしまった。
  
 妬いてるんだとは思うが、それを言うと“火に油”だし、何よりアーシェは頑固者だ。
 まあ、気が静まるのを待つしかなさそうだ。
  
 それにしても、俺がいったい何をしたというんだ?
 普段、神様なんて信じちゃいないが、もしこれが天罰なら――、
  
 マジで勘弁してほしい・・・。
  

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