Vacations in The Phon Coast

  第5話(最終話)
 


 「うーん・・・。」
  
 伸びをして、起き上がる。
 昨夜は、あれからすぐに寝て、睡眠は十分過ぎるくらいとったので、今朝は目覚めがすっきりしている。
 カーテンを開けて、ウッドデッキに出る。
 今日の天気も晴れ、だ。
 海は青く、朝方の少し涼しい潮風が心地いい。
  
 ベッドに目を遣ると、アーシェがもそもそと動いている。
 どうやら目を覚ましたらしい。
 近づいて声をかける。
  
 「お目覚めかい、女王様。」
 アーシェは、シーツから顔を半分だけ出してこっちを見ている。
 ばつが悪そうな表情だ。
  
 「昨夜はごめんなさい。」
 「何が?」
 「私、何だかカッとしてしまって・・・。」
  
 一晩寝て、気が落ち着いたようだ。
  
 「別に気にしてないが――。そうだな、もう少し素直になってくれるとありがたい。」
 「・・・、はい。」
  
 シーツにくるまって、小さくなっている彼女を見ていると、構ってみたくなる。
  
 「昨夜は妬いてたんだろう?」
 「う・・・、ん。」
 「俺が――、最近、他の女と会ってるように見えるのか?」
 彼女は、微かに頭を振った。
 「じゃあ、別に心配することはないだろう?」
 俺が、やや呆れた口調で声をかけると、少しの間をおいて、彼女は口を開いた。
 「だって・・・。あなた優しいし、誘われたら断らなさそうだし・・・。それに・・・、」
 「『それに』?」
 「そんな表情(カオ)されたら、女はあなたに魅かれるわ。」
 「・・・。」
 「だから――、心配になったの。」
 そう言うと、またシーツの下に隠れてしまった。
  
 「そんなに心配なら――、」
 アーシェを覆うシーツを剥ぐと、横になっている彼女の右太腿を挟むように、立ち膝をついた。
 「俺の“本気”、試してみるか?」
 「え?」
 「<試してみろ>って、言ってるのさ。」
 彼女の背中に手を回し上半身を起こしあげると、細い肩紐に手をかけた。
  
 「だ、だって。もう朝だし・・・。」
 「それが?」
 「あ、朝食に行かなくちゃ・・・。」
 「いらない。こっちが先。」
 彼女の髪をかきあげ、耳朶を軽く噛む。
 「は、恥ずかしいってば・・・。」
 「王宮では、朝から、なんて無理だろう?せっかくのリゾートだぜ。気兼ねは不要だ・・・。」
  
 もう片方の肩紐も横にずらし、彼女を包む薄手の寝巻きを、するりと下げる。
 カーテンから微かに漏れ入る光が、肌理の細かい白い肌を照らしだす。
 「あ・・・。」
 彼女は赤くなって俯くが、頤(おとがい)を持ち上げる。
  
 「俺のことが好きで、心配なんだろう?だったら、不安が消えてなくなるまで、感じさせてやるよ。」
  
 彼女は何か言いたそうであったが、言葉を発する前に、唇を塞ぎ、ゆっくりと重なりながら倒れこむ。
 細い腕が、背中に延びてくるのがわかる。
 最初はそっと遠慮しながら、しかし、徐々にその手は俺の頭を探りあて、指が髪に絡み始めた・・・。
  
  
 ―――――――・・・
  
 ***
  
 ――ジリリリリ・・・――
  
 玄関ベルの音である。
  
 「誰か来たわよ?」
 「出ない。」
 「いいの?」
 「放っておけ。」
  
 ――ジリリリリ・・・――
  
 「本当にいいの?」
 「放っておけば、そのうち帰るさ。」
  
 ――・・・・・・・・・・――
  
 「ほら、帰った。」
 鎖骨が浮き出たデコルテに唇をつける。
 「ん・・・。」
 彼女の口から、か細い吐息が漏れ出す。
  
  
 ―――――――・・・
  
 ***
  
 ――ドンドンドン ――
  
 突然、寝室のガラス扉を叩かれた。
  
 「おーい、バルフレア〜。起きてくれよ〜!!」
  
  「!!!!!」
 アーシェと二人、硬直する。
  
 「うぉ〜い!バールーフーレーアーー!!いつまで寝てんだよ〜!」
  
 ヴァンだ・・・。
 普通、来るか?
 こっちは男と女が泊まっているコテージだぞ?
 ありえないだろう・・・。
  
 アーシェの上にシーツを被せると、ローブを羽織る。
 カーテンをめくり、ガラス扉を開いてウッドデッキに出た。
  
 「あ!バルフレア!起き・・、」
  
  軽く吹っ飛ばす。
  
 「痛ってえー。何すんだよ!」
 「これですんで“ありがたい”と思え。」
 「何なんだよ、いったい。あ、そうだ!大変なんだよ!」
 「何が、だ・・・。事と次第では、これだけじゃすまねえぞ。」
 「シュトラールが動かないんだよ〜。」
 「なにい!!」
  
 思わず、開いた口が塞がらなくなりそうであった。
 「何で、シュトラールで来てる!」
 「だってさー。一緒に帰ろうと思ってたんだよ。」
  
 おい、帰りも一緒のつもりだったのかよ!
 いや、そんな突っ込みは後回しだ。
  
 「ノノとフランはどうした!?」
 「ノノは一緒じゃないんだ。声をかけたら『バルフレアは、僕たちを置いて遊びに行ったクポ!まったく酷いクポ。あっちがその気なら、僕らもメンテナンスなんかしてないで、遊びに行くクポ!』とか言って、出かけちゃったんだよ。」
  
 あいつら〜。
  
 「フランにも見てもらったんだけど、『困ったわ、エンジンが全く動く気配がないわ。バルフレアに聞くしかなさそうよ。』って、言うからさ〜。」
  
 ったく、どいつもこいつも!
  
 「仕方がないな。俺が行くから、玄関で待ってろ。」
 「わかった。」
  
 ヴァンを追いやり、寝室に戻る。
  
 「・・・すまない。そういうわけで、今から行ってくる。」
 「いいのよ。また、二人で来ればいいじゃない。私も着替えて、別荘に戻ってるわね。」
 そう言って、アーシェはバルフレアの頬に軽く唇を触れた。
  
 ――恨むぜ、神様。
  
 バルフレアは、深い溜息をつくと、頭を垂れた。
  
 ***
  
 「何で、こんなことに気づかない!」
 「いや〜、さっすが、バルフレア〜。」
  
 ヴァンとシュトラールのエンジンをチェックしたところ、フォーン海岸に着陸した際に、砂塵が混入し、手入れをしなかったために、それらが固まってしまったことが原因のようであった。
 グロセア機関の回りにあるグロセアリングの機軸部分をワイヤーブラシで丁寧に磨き上げ、コンプレッサーの呼気部の部品を入れ替える。慣らすために出力をいきなりトップに入れず、しばらくゆっくり回転させて、動きが滑らかになるのを待つ。
 しばらく動かしていると、エンジン音が元に戻り、大分機嫌が良くなった。
  
 「お前なー。飛空艇に乗るんなら、これぐらい勉強しておけよ?」
 「ごめん、バルフレア。」
  
 シュトラールを出ると、すでに日は高く上っていた。
  
 ***
  
 「本当に、とても楽しい休暇でした。皆さん、またお会いしましょう!」
  
 ラーサーは弾けるような笑顔を見せながら、バッシュと飛空艇に乗り込み、飛び立っていった。
 アルシドも、秘書たちと笑いあいながら、「では、ごきげんよう〜」と、出て行った。
  
 「じゃあ、俺たちも帰るとするか。」
  
 別荘のリビングに残っているのは、ダルマスカに帰る面々だけである。
 顔をしかめながら、バルフレアが立ち上がろうとすると、ナーエがアーシェに声をかけた。
  
 「陛下、もう一日残っていても、いいですよ。」
 「え?」
 「ほら、今朝はシュトラールの整備に時間をとらせてしまったし・・・。」
  
 今さら何を?とバルフレアは思いつつ、ナーエを振り返ると、心なしか申し訳なさそうな顔をしている。
  
 「ファルツには、私からうまく言っておくから、もう一日ゆっくり過ごして、彼と帰ってきてはいかがですか?」
 「ナーエ。本当にいいの?」
 「ええ。」
 「ありがとう!嬉しいわ。」
  
 無邪気に喜ぶアーシェの顔を見ると、ここは、ありがたく言う通りにしておいた方が良さそうだ。
  
 「本当にいいのか?」
 「ええ。バルフレア、陛下をよろしくね。」
  
 ヴァンとパンネロ、フラン、ナーエはシュトラールに乗り込むと、フォーン海岸を去っていった。
  
 ***
  
 「何だか、騒々しい三日間だったな。」
 「そうね。でも、あと一日ゆっくりできて、よかったわね。」
 「ああ。」
 二人で、再びゲストルームに戻る。
  
 「さて、これからどうする?」
 バルフレアは、中央のソファに座ると伸びをした。
 「せっかくだから、砂浜に行かない?」
 「そうだな。」
 「じゃあ、着替えてくるわね。」
 そう言って、アーシェは主寝室に向かった。
  
 ***
  
 「あれ〜、フラン。何だか雲行き怪しいよ〜?」
 「おい、もう降ってきてるぜ!」
 シュトラールを操舵しているヴァンとパンネロが叫んだ。
  
 「あら、そうね。あっという間に降り始めたわね。」
 フランは、ふ、と笑って答えた。
  
 「ねえ、ナーエ。もしかして、雨が降るの知ってたの?」
 パンネロは、副操縦席から後部座席を振り返った。
 「まあね。木々が教えてくれたわ。」
 「じゃあ、フォーン海岸も今頃・・・。」
 「そうかもしれないわ。」
 「せっかくの海なのに、二人ともかわいそう〜。」
 「いいのよ。これで、外で“おイタ”はできないから。」
 フランもナーエも微笑していた。
  
 「大丈夫。ラバナスタは、晴れているから。さあ、帰りましょう。」
 「了解。」
  
 シュトラールは、雨雲を突き抜けるように飛んでいった。
  
  
  
  
  =END=
 P.S. “Damn it !!” by Balflear
  

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