Vacations in The Phon Coast

  第3話
 


 「うわ、何これ。すげぇ美味いんだけど。」
 「ホントだ〜。来てよかったねー。」
  
 ヴァンとパンネロは、満足気に夕食をほおばっていた。
 大食堂には、バルフレアとアーシェの他に、ヴァンとパンネロ、フラン、ナーエが座り、テーブルを囲んでいた。
  
 「で、なんでここがわかったんだ?」
  
 不機嫌そうにバルフレアはフランに尋ねた。
 「皇帝陛下から連絡があったのよ。『バルフレアさんたちに別荘を貸しましたから』って。」
 フランは、いつもどおりの口調で淡々と答えた。
 「だからって、わざわざ来ることはないだろう?大体、ナーエは仕事があるだろう、仕事が!」
 普通に食事を取っているナーエに話を向けた。
 「ああ、それは大丈夫よ。ファルツに言ったのよ。『陛下が休日で出かけているのだけど、例の機工士も王宮にいないわよ』って。そうしたら『仕事を代わるから、とにかく探してこい』ですって。本当に助かるわ。これからも、この手を使おうかしら。」
  
 おいおい、冗談じゃない!
  
 「フランはともかく、なんでヴァンとお嬢ちゃんがいるんだ?」
 「だって、せっかくリゾートに行くんだから、大勢の方が楽しいと思ったわけよ。」
 「そうよ、バルフレア。あなただって、ヴァンやパンネロと旅をするのは久しぶりでしょう?」
  
 いや、それはそうだが、ソレとコレとは話が違うだろう?
  
 「ああ、もうわかった!とにかく、俺達がここにいることはわかったわけだから、もう用はないだろう?いつ、帰るんだ?」
 「えー、そんな冷たいこと言うなよ、バルフレア〜。」
 「お前らがいたら、アーシェの休日にならないだろう?さっさと帰れ!」
 ヴァンとバルフレアのやりとりを笑いながら見ていたフランが口を開いた。
 「わかったわ。明日の夕方にでも帰りましょう。昼間は、好きなだけ遊べばいいわ。」
 「やったー!」
 ヴァンとパンネロは大喜びであった。
  
 (明日には帰るんだから、まあ、仕方がないか・・・。休暇はまだあるしな。)
  
 ***
  
 翌日も、晴天であった。
  
 「今日も晴れてて、気持ちいいわね!ねえ、バルフレア!」
 アーシェは、すでに着替えを済ませ、まだベッドに寝ているバルフレアに声をかけた。
 「ああ、そう。それはよかった・・・。」
 枕に突っ伏したまま、彼は返事をした。
  
 結局、昨夜は遅くまで起きていたあげく、部屋に戻るなり、彼女は「疲れた。もう眠い。」とか何とかいって、さっさと一人で寝てしまったのだ。
 気づいて声をかけた時には、完全に熟睡していて、まるで起きる気配がなかった。
  
 「皆が待っているといけないから、私、先に行くわよ。早く来てね。」
 アーシェはそう言い残すと、部屋を出て行ってしまった。
  
 頭をかきながら、渋々起きると、バルフレアも着替えをすませ、階段を下り、大食堂の扉を開けた。
  
 ***
  
 「おはようございます!バルフレアさん!」
  
 よく通る声で、朝に相応しい爽やかな挨拶をしてきたのは、ラーサーであった。
  
 「ああ・・・。 って、お前、何でここにいるの?」
 「いえ、皆さんがいらっしゃると聞いて、いてもたってもいられなくって!あ、大丈夫です、ローゼンバーグ将軍も連れてきましたから!」
  
 いや、そんなことを聞いてるわけじゃない。
 嫌な汗が背中をつたうのを感じていると、ヴァンが声をかけてきた。
  
 「そうそう、バルフレア〜。ラーサーがさぁ、今日も泊まっていけって言うんだけど・・・。」
 「はぁ?」
 「なかなか、皆さんとご一緒できる機会なんてありませんからね。部屋でも着替えでもすぐに準備できますから、どうか気になさらずに滞在してください。ねぇ、パンネロさん!」
 「ラーサー様がそうおっしゃるなら、もう一日位いいかなあ。フラン、どうしよう?」
 「あら、いいんじゃない。当主様がおっしゃるなら、お断りする理由がないわね。」
  
 “お断りする理由”は、俺にある!俺に!
  
 フランが、昨日、いやにあっさりと「帰る」なんて言ったと思ったら、こういうことか。
 大体、ラーサーが別荘を貸すのを快諾したり、フランに情報をリークしていたのも、“これ”が狙いだったんだな!
  
 してやられた、とバルフレアがうな垂れていると、アーシェが声をかけた。
 「いいじゃない。こうして皆と楽しめる機会なんて、滅多にないもの。私は、大勢なのもいいと思うわ。」
  
 いや、二人で遠出できる機会も滅多にないんだが・・・。
  
 「バルフレアー、いつまでも立ってないでさ〜。さっさと朝メシ食べないと置いてくぞ〜。」
  
 ・・・。
 もう、何も言うまい。
  
 ***
  
 コドモが4人、すっかり楽しそうに海で遊んでいる。
 いや、違う。
 そこにオトナが一人混じっている。
  
 「将軍は、本当に面倒見がいいんだな。」
 残った“オトナ”である、俺とフランとナーエは、日傘の下のデッキチェアに横たわりながら、遊んでいる彼らを見ていた。
  
 「あなたも、あのくらい大人になったらどう?」
 「そうそう。ちょっと邪魔されたくらいで、大人気ないわよ。」
  
 お前らには言われたくない!
  
 まあ、いつまでもふて腐れていても仕方がないので、開き直って、読みかけの本でも読むこととした。
 使用人にジェネバ酒をベースにフィズを作ってくるよう頼む。
  
 バロース酒は、多肉種の植物から作られた蒸留酒だが、ジェネバ酒は穀類からできる蒸留酒である。ダルマスカは砂漠地帯が殆どだが、アルケイディアは肥沃な大地に恵まれているので、穀類の生産が盛んであり、必然的に作られる酒も穀類ベースなのだ。
  
 人数分用意された(もちろんオトナの人数だ)ジェネバ・フィズを飲みながら、頁を進めていく。
 時々、海から歓声が聞こえてくる。
  
 (“平和”ってやつもいいもんだねぇ。)
 バルフレアは、開いたページで顔を覆い、デッキチェアで大きく伸びをした。
  
 ***
  
 「いや〜。皆さん楽しそうですねぇ〜。」
  
 背後から聞こえる鼻にかかった独特の声。
 起き上がって振り返ると、アルシド・マルガラスが立っていた。
 例のごとく美人秘書を連れている。しかも4人もだ・・・。
  
 「あんたは誰に呼ばれてきたんだ?」
 投げやりな言い方でバルフレアは尋ねた。
  
 「いえ、別に誰に呼ばれたわけでもありませんよぉ。うちの優秀な情報部が、此処にラーサーも姫、失礼、女王陛下もお見えになるらしいと情報を集めてきたものですから、せっかくなので会いに来たわけです。」
  
 もう少し、まともなことに情報部を使ったらどうだ?
  
 バルフレアが渋い顔をしているのも一向に気にせず、アルシドは彼の隣のチェアに座った。
 「それにしても、女王陛下は随分お変わりになりましたねぇ。この間までは、可憐な花だと思っていましたが、随分と艶やかに匂いたつような華になられましたなあ。できれば、私が、更に大きくお育てさしあげたいものですが・・・。」
  
 お前、どさくさにまぎれて、何、言ってんだよ!
  
 「あのなぁ、あんた・・・。」
 今日こそ一言言ってやろう、とバルフレアが声をかけるのを無視し、アルシドは、さっさと浜辺に向かってしまった。
 「皇帝陛下〜、女王陛下〜。お久しぶりです。」
 「アルシドじゃないか?久しぶりだなぁ。」
 奴は、さっさとコドモの輪に合流してしまった。
  
 「あなた、ほっといていいの?」
 フランが声をかけてきた。
 「何を?」
 「あれ、見てごらんなさいよ。」
 言われて、よく見てみると、奴はちゃっかりアーシェの隣に立っている。
 <姫、大丈夫ですかぁ>なんて言ってるのかどうかは知らないが、ちょっと彼女がよろめいたくらいで肩や腰に手をあて支えている(触ってる?)じゃないか!
  
 「さっさと行ったほうがいいんじゃない?」
 ナーエが、いやにけしかけるので、突っ込んで尋ねてみた。
 「何か気になることでもあるのか?」
 「いえ、あの男が気に入らないだけよ。」
 ああ、そうかい。
 俺は、あんたの使い走りってわけか?
 まあ、『気に入らない』という点では、俺もあんたと同感だ。
 溜息をつき、立ち上がって、浜辺の輪に向かう。
  
 「おい、そこの色男。」
 俺は、アルシド・マルガラスに声をかけた。
 「随分、楽しそうだが、浜辺を見てみたらどうだい?」
 そう言って、親指を立てて、浜辺を指した。
 「何ですか?いったい?」
 二人で、デッキサイドの奥の砂浜を見る。
 例の、美人秘書たちがこっちをじっと見ている。
 うち、一人にいたっては、腕を組んで、かなり険悪な表情だ・・・。
  
 「どうするんだ?いったい?」
 興味半分、呆れ半分で尋ねた。
 「本当に仕方ないですね〜。わかりました。ここは一先ず戻りますかね。」
 奴は、軽口をたたくと、諸手を広げて浜辺に戻る。
  
 全く、あんな男のどこがいいのか?
 女たちの気がしれない・・・。
  
 奴を追っ払ったところで、アーシェに声をかけた。
 「女王様、外交上手も構わないが、ほどほどにしてくれよ?」
 俺は一声かけると、彼女に背を向けデッキチェアに戻った。
 読みかけにしていた本をとりあげ、別荘に足を向ける。
 「あら、もう戻るの?」
 「ああ、少し日に当たりすぎたからな。中でゆっくりするさ。」
 言い残すと、屋敷に戻った。
  
 ***
  
 部屋に戻って、テラスの椅子に横になる。
 涼しい風と波の音に、眠気を誘われていった。
  
 ***
  
 どのくらい寝ていたのだろう?
 ふと、鼻腔を擽る甘い香りに目を開くと、アーシェが目の前で横になっていた。
  
 「なんだ、水遊びは終わりか?」
 声をかけると、彼女も目を開き、こちらを見る。
  
 「ごめんなさい。」
 「何が?」
 「私、つい、楽しくって遊んでしまってたけど、よく考えたら二人で休暇に来たのよね?」
 「ああ、まあ、そうだな・・・。」
 「こうして、二人きりで過ごせることって、あまりないじゃない?」
 「・・・。」
 「私も、あなたとゆっくりしたい、って思ったの・・・。だから、コレ借りてきたわ。」
 そう言うと、彼女は鍵を一つ見せる。
 「北にコテージが数棟あるんですって。一つ、借りてきたから、一緒に行かない?」
 アーシェは、顔を下に向けているが、少し赤くなっているのがわかった。
  
 「――じゃあ、行くか?」
 「うん・・・。」
 目の前で頷く彼女を、思わず抱きしめた。
  
  

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