Vacations in The Phon Coast -Extra-

  Extra story
 


 「待たせてごめんなさい。」
 着替えて、意気揚々と歩き出すアーシェの後をついて、別荘から海岸へ向かった。
 (たまには、水遊びに付き合ってやるか・・・。)
 デッキチェアに荷物を置いて、二人で波打ち際に歩き出す。
  
 (ん?)
  
 急に、空気が重くなってきた。
 空を見上げると、いつの間にか、曇ってきている。
  
 (雨になるのか?)
  
 フォーン海岸の天候は、一気に崩れる傾向にある。
 ナルドア海からの低気圧は、時として、フォーン海峡で威力を上げ、猛スピードで接近してくる。
 更に言えば、一度崩れると、なかなか天候が回復しない。
  
 「アーシェ!こっちに戻って来い!」
  
 先に海に入って、波と戯れているアーシェを手招く。
 不満気な顔をして戻ってきた彼女の手を引き、足早に別荘に戻る。
 残念ながら、戻る途中で、土砂降りの雨が降り出した。
 水着なのが幸いだったが、体の芯まで一気に冷えていく。
  
 ***
  
 「せっかくの休日なのにつまらないわね。」
  
 ゲストルームのテラスから海辺を見ているアーシェは、浴布で身体を拭きながら愚痴をこぼしていた。
  
 俺はというと、部屋に戻ると早々にバスルームのハンドルを廻しておいた。
 自分で言うのも何だが、本当に気が利くと思う。
 さて、そろそろタブに湯も張られた頃合だろう。
  
 「冷えただろう?風呂でも入ってきたらどうだ?」
 「それもそうね。でも、先に使ってもいいの?」
 彼女は少し申し訳なさそうな顔をした。
 「ああ。後から入るから、先に使ったらいい。」
 「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えるわね。」
 そう言って、浴布を持ったまま、彼女はバスルームへと向かった。
  
 ***
  
 「ん〜。」
  
 アーシェは、バスタブの中で、腕と足を大きく伸ばし、一息ついていた。
 雨で冷え切った身体に染み渡るような、心地良い湯の温もりが彼女の全身を包んでいく。
 両手で湯をすくい、顔にかける。
 大きく深呼吸し、もう一度肩までつかると、背後の扉が開く音がした。
  
 「寒いから、もう入るぞ。」
 躊躇なくタブに近づくバルフレアに、背を向けたままアーシェは声をあげた。
 「もう!だから『先に使っていいの?』って聞いたじゃない!」
 「『後から入る』と言っただろう?」
 笑いながら彼女の背後に身体を沈めたバルフレアは、両腕で身を隠す彼女を、ゆっくりと抱きすくめた。
 「おっ、温かい。」
 「いやっ!冷たい!!」
 両脚をばたつかせているアーシェを無視して、バルフレアは彼女の温度を奪っていった。
  
 ***
  
 しばらく二人で湯につかっていると、身体が大分温まってきた。
  
 バルフレアはアーシェを抱えるような格好で、タブに横たわっていた。
 彼女は、『なんて人なの!』と言いながら、浴布を湯にいれ、自分の身を隠すように覆っている。
 こんな布では、身体のラインを隠すことは難しいと思うのだが、気が済むならそれでいい、とそのままにしておいた。
 時間がたったためか、リラックスしたためかはわからないが、今、彼女は自分の胸に頭を預け、目を閉じて身体を伸ばしており、すっかり無防備になっている。
  
 「女王様、起きておられますか?」
 目の前にある彼女の頭に、鼻先をあてて話しかける。
 こくりと、頭が頷いた。
  
 「温まって、気持ちよくなりましたか?」
 再び、彼女の頭が頷く。
  
 口元を彼女の耳に近づけ、小声で囁く。
 「もう少し、いい思いをさせてさしあげましょうか?」
 今度は、頭が動かない。
 むしろ、全身に緊張が走るのを感じる。
  
 「どうせ、わかってるんだろう?トボけるのはなしにしようぜ?」
 唇を彼女の頬にあて、左手を胸元に滑らせながら、右手で浴布を剥ぎ取っていく。
 彼女は抵抗はしなかったものの、少し体を起こし、しばらく黙る。
 程なく、上半身を捻り、両腕を俺の首に絡めて、身体を預けてきた。
 「ここじゃ、いや・・・。」
 耳元で、小さく呟く声。
 「賜りました、陛下――。」
 左腕を彼女の背中に廻し、右腕を両膝裏に通して、一気に抱えあげる。
 湯飛沫があがり、透明な湯が白い肌を滴り落ちていく。
  
 「濡れたままよ?」
 小声で尋ねる彼女は可愛い。
 「気にするな。どうせ、またすぐ濡れる。」
  
 バスルームを出ると、彼女を抱えたまま主寝室に入った。
  
 ***
  
 広々とした寝台に彼女を横たえる。
 湯にあたったのか、興奮のためかはわからないが、彼女の瞳は潤んでいて、頬も首も胸元も、全身が薄赤色に染まっていた。
 ゆっくりと覆い被さり、互いの口を近づける。
  
 はじめは啄ばむように――、
 次第に唇を噛み――、
 開いた口元を交互に重ね――、
 舌を絡め、貪っていく。
  
 首筋に唇をあてて、静脈に沿いながら下へ、下へとずらしていく。
 脈動がそのまま口先に伝わってくる。
 鎖骨を舌で撫で、心臓の真上で口付けた。
 高ぶっている心音を感じながら、胸の膨らみを食み、右手でもう片方を嬲る。
 彼女は一瞬、身体を震わせるが、声を出すまいと、口を閉ざす。
 しかし、正直に反応する身体は、彼女の意に反して、呼吸を荒げさせ、その唇を開かせる。
 微かな吐息が、漏れ聞こえ出す――。
  
 ***
  
 後れ毛が残る細いうなじを、
 よくしなる滑らかな背中を、
 括れの際立つ腰を、
 華奢な足首と無駄のない脹ら脛を、
 順に慈しみながら、愛撫する。
  
 「ね、もう・・・。」
 苦しげに声を出す彼女を見やると、その瞳は、ねだるように自分を見ていた。
 「なに?」
 笑いながら聞き返すと、彼女は少し拗ねた顔をする。
 「意地悪・・・。」
 「俺が欲しいのか?」
 彼女は、一瞬、目を伏せる。
 だが、もう一度、俺を見ると、目を閉じて頷いた。
 「だったら、言ってみろ。」
 少し躊躇するが、彼女は顔を横に向け、口を開いた。
 「あなたが欲しい――。お願い、きて・・・。」
 その台詞に満足すると、彼女の右大腿部を掲げ、身体を沈める。
 その刹那、泣き声に似た、でも、甘い声を彼女は発する。
  
 ***
  
 緩急を加えながら、目合いあう。
  
 「ん・・・。」
 昂ってくると右手の甲で口を押さえるのが、彼女の癖だ。
 細い手首を掴み、手を口元から離させる。
 不思議そうに、でも、熱っぽい瞳で、彼女は俺を見た。
  
 「アーシェ、今日はお前の声が聴きたい――。」
  
 彼女は、王宮で決して声を出そうとしない。
 口を塞ぐか、枕に顔を埋めるかして、声を殺す・・・。
 別に誰かが聞いているわけでもないのだが、女王としての彼女の意識が、知らずしらずの内にそうさせているのかもしれない。
  
 「でも・・・。」
 「大丈夫、ここには俺達しかいない。」
 上気した顔で、俺を見上げる彼女・・・。
 そんな表情(カオ)をされたら、男は堪らない。
 「お前の“歌”で、俺を感じさせてくれ。」
 そう言うと、閉じた彼女の唇を、己の舌でこじ開ける。
 彼女はそれに応えつつ、身体を密着させてきた。
  
 細身の身体を揺さぶると、甘い囀りが口から漏れる。
 執務室で見せるような凛とした表情は跡形もなく消え、内に秘める熱さがとろけ出す。
 部屋には、二人の息遣いと、彼女の善がる声しか聞こえない。
 ただただ、互いを貪り合うだけ。
 その切ない声は、心と身体を猛らせるのに十分であった。
  
 ***
  
 「バル・・・、もう・・・、私――。」
 彼女は、息も絶え絶えに、自分の果てが近いことを告げてきた。
 「なあ。」
 「なに?」
 「俺を・・・、名前・・・で、呼んで、くれないか・・・。」
 こっちも息があがりだす。でも、止められない。
 アーシェは目を細めて微笑むと、両手で俺の頭を引き寄せると、耳元で囁いた。
 「ファムラン・・・。私を、一緒に連れていって――。」
 耳朶にかかった熱い息と、誘いかけるような彼女の声音に、全身の血流が速まる。
 軽く唇を重ねると、すらりと伸びた足を抱え上げ、一層深く、鋭く繋ぎ合わせた。
  
 ***
  
 ――――――――――
  
 ***
  
 大きく深呼吸し、心地よい気怠さを感じながら、繋がったままの状態で、彼女の上肢に身を預ける。
 彼女の胸も、上下に大きく揺れていた。
 呼吸を整えつつ、どちらからともなく唇を近づける。
  
 「塩辛いわ。」
 彼女は、笑いながら、もう一度、俺の唇を軽く舐めた。
 「すごい汗・・・。」
 背中をそっと撫で上げられ、額にへばりついた前髪をいじられる。
 為すがままにされながら、彼女の感触を楽しんだ。
  
 「風呂でも入るか。」
 ゆっくりと起きあがり、身体を離そうとしたが、彼女の足が腰に絡んだままだった。
 「行かないのか?」
 「もう少し、こうしていたい。」
 アーシェはそう言うと、両腕を首に絡めてきた。
 苦笑しながら、彼女をゆっくり抱き締める。
  
 ***
  
 数秒後、異変に気づく。
 「!」
 彼女の中の余波に締め付けられる。
  
 「お前・・・!」
 「私に火をつけたのはあなたよ。」
 濃艶な眼差しで見つめられ、一度は眠ったはずの情欲が、一気に唆られる。
 「・・・。もう、知らねえぞ。」
 ゆっくり腰を動かすと、気持ちも身体も再び猛りだす。
  
 「もう一度、飛ばせて?」
  
 うちの女王様は、我が儘らしい。
 だが、こんなおねだりなら歓迎だ。
  
 「振り落とされるなよ?」
  
 彼女を抱き起こすと、再び、深く、唇を重ね合わせた。
  
  
  
  
  =END=
  

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